古代ダンジョンに潜るその6
次は悪魔ベルゼルとの対決だけど、悪魔学事典によれば数千年の長きに渡って存在する悪魔って人の手には負えないって書いてあった。人間が何とかできるのは、悪魔になって百年未満がやっとだと言う。どうすれば良いの?
最後のダンジョンだ。私たちでは太刀打ち出来ないのは明白。どうすれば良いのか。ウエルテルもさすがに打つ手がないと諦めていた。
ミカサは当たって砕けろって無責任な事を言うし。
悪魔が住むと言うダンジョンに私たちはやって来た。ダンジョンの前に紳士が立っていた。
「お待ちしておりました。私はベルゼルと申します」
ミカサ、カオリさんの表情が一瞬で険しくなった。私も驚いている。このベルゼルという悪魔からは一欠片の魔力を感じなかったのだから。
「私はエマ・フォン・バイエルンと申します。初めまして」
「エマ様、私たちは初対面ではありません。そちらのお嬢様方たちは初対面ですけれども」
「ベルゼル様、私は何度かここを訪れているのでしょうか? 」
「前回の時は、エマ様の執事として仕えておりました。設定はセバスチャン(仮)でした」
「立ち話も無粋ですので、私の屋敷に参りましょう」
私は何度か死に戻りをして悪魔ベルゼルを従えたらしい。その結果は知りたくない。
ダンジョンに入ると、そこは王宮と言っても良いくらい豪華だった。
「この茶器は数代前の天子様が大切にされていたと言う茶器の絵姿にそっくりだ」
「その茶器は何とかと言う国の王から貰ったもので盗んだものではありません、旅の途中に国王に、お水を下さいと言ったら、茶器ごと私にくれたので、脅したとかはしていないですから」
ベルゼルさんの存在自体が恐怖です。
「お客様ですよ。お茶会の用意をしてください」と悪魔ベルゼルが家臣を呼ぶと、執事の服装をしたベルゼルがわらわらと出て来た。ベルゼルさんは、自分に似せて作ったホムンクスルだと言う。ベルゼルさんは自分のことが大好きなようだ。
私たちは和やかに悪魔ベルゼルとお茶を楽しんでいた。お茶の味がわからないほど緊張は、しているけれどね。
「ベルゼル様は前回は私の執事をされていたそうですが、もしかして前回の私はベルゼル様と契約を交わしたとかでしょうか?」
「何度も契約をしています。前回、ようやくあなたの魂を食したのですが、食あたりを起こして大変でした。もう二度とエマ様とは契約をしないと心に誓いました」
悪魔に私の魂を差し出すと言う提案は、私が言う前に悪魔ベルゼルによって却下されてしまった。
どうもミカサとカオリさんは悪魔ベルゼルと闘うことを選択をした様だ。
「みなさん、動かない!」とベルゼルが言うと私もミカサもカオリさんも動けなくなってしまった。
「今回は力が欲しいと心から願っているニコラさんと契約しようかと考えているのですが、ニコラさんはどうされますか?」
ニコラは思考が完全に停止し、フリーズしてしまった。
「なぜ、今回はニコラと契約なさるのですか?」
「ニコラさんがこのメンバーの中で一番欲が深いからです。欲にまみれた魂ほど美味なものはありませんから」
ニコラが羞恥で真っ赤になってしまった
「ニコラさんは力が欲しいのでしょう、私と契約すれば思う存分力が発揮できますよ。この国の国王にも成れる、それどころかすべての国の国王にも成れます」
「魅力的な提案でしょう」
「ニコラさんがこの国の国王になれば、エマ様が望む平和がやって来るかもしれません」
「ベルゼル様のご提案はありがたいとは思いますが、私は国王には成らないので、お断りさせていただきます」
「珍しいですね。多くの人が国王とか世界の覇者を望むのに」
「私はこの中で確かに一番欲が深いと思います。私はこの世界のすべての身分をなくしたいのですから」
「自由で公平で平等とか言う戯言の信者の方でしたか」
私は世界がそうあってほしいと願っています」
「強い者は自身より弱い者を抑えつけるのがこの世の道理。そこで悪魔の出番なんですけどね」
「ニコラさんがこの羊皮紙に血でサインするだけで世界最強の強者になってそれ以外は横並びで自由で公平で平等と言うのは妥協点として良いのでは」
「それではダメなんです、誰もが平等で公平で自由じゃないと」
「ニコラさんとの契約がダメって事になるとこの金貨は渡せないですね、どうしますみんなさん」
あれが、最後のメダルなのか? 仕方ないよね悪魔ベルゼルに良い様に翻弄されている様では課題達成は無理だ。
「エマ様、私のせいで……」
「ニコラのせいではないから、私は誰かを犠牲にするのは嫌だから」
「ベルゼル様、良ければその金貨見せてもらえませんか?」
「私たちは盗んで逃げることは出来ませんし」
「構いませんよ。どうぞご覧下さい」
「ヴィクター、この金貨をどう思う」
「古代の金貨だね。この皇帝の肖像画が、二度刻印されているのでエラーコインだと思う」
「校長がそう言ったものをメダルとするだろうか? エマどう思う?」とウエルテル。
「間違いなく売ります、お金を私蔵してはいけないと言う信念の持ち主ですから」
「ベルゼル様、私たちの探しているメダルはどこにございますか」
「アレですか、私の寝室に置いてあります」
悪魔ベルゼルは嘘は言わない、人が勘違いする様に誘導するのが上手い。悪魔だけの事はあると感心した。




