古代ダンジョンに潜る
最後の廃墟には何もいなかった。メダルと一緒にお疲れ様のメモと古代ダンジョン三カ所の地図が置かれてあった。この三カ所のどこかに数千年の時を過ごしたと言う悪魔ベルゼルがいるらしい。ちなみに悪魔ベルゼルは不死だと言われている。
「ねえ、ウエルテル、不死の悪魔をどうすれば倒せると思う」
「倒すのではなく、こっそりダンジョンに侵入してメダルを見つけたら直ぐにポケットに入れて逃げる」
「要するにダンジョンで泥棒をするわけね」
「それはダメだ。ダンジョンの入口で悪魔を呼び出しで正々堂々と勝負を挑んで勝利してメダルを手に入れてこそ価値あるメダルだと私は思う」
私には見える、ファイアボルトが悪魔を温める様子が、ウインドミルが悪魔にはそよ風のように感じている未来が、私には見える。ミカサがいる限り私たちは失敗する未来しか見えない。どうしたら良いのかヴィクターを見たら、魔道具のアイデアが浮かんだ様でせっせとメモ書きをしていた。魔道具バカは使えない。
悩んでも意味がないので、ここから一番近い古代ダンジョンに向かう。ミカサがやたらと元気だ。迷惑な未来しか見えない。カオリさんはそのミカサの様子を、姉の様な優しい目で見ている。ミカサは姫君なんだからそこは抑えた方が良いと思う。王妃様に告げ口してやるから。私の性格は相変わらず悪い。
ダンジョンの入口の壁画に古代文字で描かれていた。ニコラが「ここより入るもの出る事能わず、ここから入ると出ることが出来ないって書いてますね」と教えてくれた。
「ニコラ、古代文字が読めるの?」
「父上は歴史学を研究をしてますから、少しは読めます」
「僕が先頭でヴィクターはその後で」
「ウエルテル、私が先頭で行く」
「ミカサ先輩とカオリ先輩はエマと一緒に後方を守ってください。全員が通ってから罠が作動する事も多いですから、2人には後方を見てもらいたいです」
「エマと一緒に後方を守って逃げ道の確保か、責任重大だな」
ミカサが先頭を歩くと罠を踏む確定した未来しか見えないから、さすがウエルテル、グッドジョブです。
「プレートに落石注意って書いてます」とニコラ。確かに上から岩が落ちてきそうだ。
「地面には罠はない、あるとすれば壁かなぁ」とウエルテル。
「この出ている所を押すと岩が降って来るとか」
ミカサはそう言って壁の出っ張りを押した。岩が落ちて来て先に進めなくなった。この姫君は何を考えているのやら。
「ミカサお嬢様、不用意に壁を触ってはいけません」
「すまない、カオリ、つい触ってみたくなった」
カオリさんが岩の前に立つと岩が二つに割れて通ることが出来る様になった。なぜ岩が割れたのかわからない、尋ねても「秘密ですから」と言われる未来が見えた。
今、私たちは暗闇の中を滑り落ちている。百八十度回転したり、男の子たちは無言だ。意識があるのか心配だ。女の子たちは悲鳴をあげているがなぜか楽しそうだ。そして、私たちは池に無事着水した。
少し時間を遡る。前方には果てしもなくどこかまでも深い穴があいていた。浮遊魔法で浮かんだものの前には進めなかった。天井に持ち手があったのでそれを掴むと進むことが出来た。全員が浮遊魔法で持ち手を握って進み始めたら、天井が突然滑り出した。私たちは持ち手をしっかりと握りしめた。
「アレは罠か?」
「最初は怖かったけど、途中から面白くなってしまった」
「遊具かもしれない。まったく悪意を感じなかったから」
「もう一度あの場所に戻れないかなぁ。もう一度滑り落ちたい」相変わらずミカサはポジティブだ。
風魔法で全員の服を乾かした。
「上を見て光っているわ」ニコラが洞窟の天井から垂れ下がっている糸が光っているのに気付いた。
「アレはツチボタルだ」
「ツチボタルって何なの、ヴィクター」
「ハエだったか、その幼虫が粘液を出してその粘液が光を出す。その様子をツチボタルって言う」
「あの光ってるのが昆虫の粘液なの? なぜ光りを出すのかしら」
「光を出して、虫を誘き寄せる。あの糸に虫がつくと虫は動けなくなる。その後虫は溶かされて幼虫の栄養分になる」
「うわ、聞くんじゃなかった」
幻想的な光景から一気に醒めた。私たちだった。