幼稚部予科に入学した
みんな死んだ様な顔だね。貴族の子弟がしくじったら叱責されるのはお付きの人だものね。直接、叱責されたり鞭で打たれたりしたらそう言う顔になるよね。わかるよ。
「担任のゴーモンです。これから私があなたに貴族の礼儀作法を教えます」
「ゴーモン先生、初めまして、侯爵家二女、エマ・フォン・バイエルンと申します」
「ここではご実家の威光は通用しません。名前が聞こえなかったので、もう一度挨拶をして下さいませ」
この問答を繰り返すこと数十回。どんどん私は楽しくなって来たので、笑顔になってしまった。逆に先生が不安になったご様子。
「エマ、あなたはなぜ笑顔なのですか?」
「ご挨拶は笑顔でするものだと私は思っております」
「さすがわ、エンドラの娘ですね。教育するのが楽しみです」
「ありがとうございます」
「寮の事は寮長のエメラルダに教えてもらいなさい」そう言ってゴーモン先生は職員室に行ってしまった。
「寮長のエメラルダです」と、割と小柄な女の子が私の所にやって来た。何となくだが、私を怖がっているみたい。
「ブレンダ、あなたもここに来て」ブレンダと呼ばれた子の目は死んではいなかった。
「寮長はエメラルダなんだから、呼ぶなよカッタルイ」
「エマはブレンダと同室なんだから」
「やっと追い出して、一人部屋にしたのにもう相部屋かよ」
「私はエマ。初めましてブレンダ」
「名前なんて覚えるつもりはないよ。直ぐに叩き出してやるから」
「そう、たぶん出て行くのはあなたの方かも」
「面白い、やろうと言うのか」
「お望みとあらばね」と言った途端ブレンダの前蹴りがきた。私は何事もなく避けた。だって予備動作が見え見えなんだもの。
「お前、喧嘩慣れしてんな」右拳を真っ直ぐに打って来た。何というか正直過ぎる。私はあっさりかわした。
「遅いわ、後軽くフェイントを入れないと」ブレンダは逆上してメチャクチャに襲い掛かって来たけど、足元への注意が疎かで、足払いを掛けたら自分からスッコロンで行った。
「お前、卑怯だぞ。格闘技やってんじゃないか」
「女が格闘技を学んだらダメなの? うちでは母上も姉上もモンクに護身術と言う名目で格闘技を学んでいるわ。私なんか教えてもらい始めてから一年ちょっとよ」
ブレンダは私を部屋から追い出す事は諦めてくれた。お互いに干渉しない。簡単に言うとお互い無視、相手を存在しない者として扱うというルールが出来た。
礼儀作法の授業でも、ゴーモン先生は私を無視して、毎日校庭を100周させて喜んでいた。母上とゴーモン先生との間には何か確執がある様だ。テストの時だけ教室に呼ばれ、礼儀作法のテストをされた。不合格だと全身鞭打ちの刑で多くの子が教室でのたうち回っている。ゴーモン先生は私に目をつけているので、合格でも鞭打ちの刑だと思っていたのだけれども、それはしなかった。後日、校長が魔道具でテストの様子を覗いているからだとの噂を聞いた。その腹いせを他の児童に向けているので、タチが悪い。その内悪役令嬢らしい行動に移ろうと思っている。火炙り、氷漬け何がいいだろう。心がタギってくる。