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ポコタの街へ

「この子たちは身も心も浄められたけど、ゴブリンに攫わ(さら)れた記憶は消せない、そして家族の記憶も、村や街の人の記憶も消せない」


「この子たちが家族の元に帰るのを希望するのなら、当然送って行くけど、決めるのは彼女たちだ、私たちじゃない」


「ミカサお姉様の言っていることがわかりません」


 ゴブリンに攫わ(さら)れた女の子はゴブリンのオモチャにされているので、生きて自分の村や街に戻っても汚れた者として扱うバカが多い。祝詞(のりと)で心の傷を癒やしたけれども、面白がって傷つける人間が必ずいる。だから彼女たちのことを知らない街に住む方が良いのかもしれない、彼女たちが望むならヒノモトに連れて行っても良い、とは言えそれを決めるのは彼女たち自身だとミカサは言う。


 彼女たちは被害者なのにどうして、そんな目に合わないといけないのか、「まったく私には理解出来ない」と言うと、「人間って残酷だからね」と言ってミカサはふっと笑った。


 後片付けを終えてウエルテルが戻って来た。かなり疲れている。

「お疲れ様、ウエルテル」

「まあね」


 ウエルテルはゴブリンの子どもを全部始末してきた。あの洞窟の扉の向こうには生まれたばかりのゴブリンの子どもたちがいたはず、私たちには絶対出来ない仕事をウエルテルは1人でやってきた。みんなわかっているから尋ねなかった。ミカサを除いて。


「私が始末したゴブリンどもはちゃんと浄化させたのだが、まだ残っていたのか?」

「はい、少々残っていました」

「この大雑把な性格を治さないといけないなあ」

 ミカサはデリカシーを身につけるべきだと思う。


 ニコラが意識を取り戻した女の子たちにポーションを飲ませ終えた。5人の女の子たちが呆然として私たちを見ている。


「私、助かってしまったの、家に帰りたいけど帰れない」

「私も帰れない」


 みんな帰りたいけど、どんな目に合うかがわかっているので帰れないと口々に言う。

「私、ゴブリンに攫わ(さら)てもう、アレ穢さ(けが)れてない」


「お前たちの穢れ(けが)は私たちが取り除いた、問題はない」


 女の子たちにはゴブリンにオモチャにされた記憶が鮮明に残っている。ゴブリンに攫わ(さら)れる前の体に戻っていても、受け入れられない。自分たちと同様に家族も知り合いも街や村の人も信じないだろう。


「私たちはポコタの街に向かう、お前たちが望むなら一緒に来ても良い」

「ポコタか、私の知り合いは誰もいない」

「私もいないわ」


「私の知り合いに貿易商がいる。女の子の5人くらいは雇ってくれる」


「姫様もやっとポコタからお国に帰国されるのですね」

「ヴィクター、お前、今、何と言ったのかな」

「そろそろ、帰国しないと国王陛下がご心配かもと思いまして」

「ヴィクター、今、メダルは幾つ持っている?」

「9個です。後1枚で古代ダンジョンに入れます」

「そう、もう1枚で古代ダンジョンが目前に来ている私に帰国しろとは良い度胸だ」


 私はヴィクターの前に立ち塞がった。


「命拾いしたな、ヴィクター」


 危なかった。本当に危なかった。ヴィクターがこの世から消えるかと思った。


「あの方は王女様ですって」

「王女様って初めて見たけど、素敵ね」

「王子様だともっと良かったのに」


 ミカサの勇姿に惚れたのか、5人そろってポコタの街に行くことになった。ポコタで暮らすか、ミカサの国に行くかはすぐに決めなくて良いとミカサは言った。


 ポコタはこの国2番目に大きな港を持つ街なので、ヒノモトへ向かう船が一月に一度やって来る。私もヴィクターもミカサには国に戻ってほしいわけで、ヴィクターは勇敢だった。それに比べてヘタれた私は反省しないといけない。ローレンスさんとミカサを国に戻す約束をしたのは私なのだから。ヴィクターの肩でも揉んであげようか。やめておこう、ミカサに見られたらヴィクターがこの世からいなくなりそうだから。


 ポコタの街に着いた。女の子たちをミカサの知り合いの貿易商に預けた。貿易商からミカサに手紙が渡された。ミカサの顔が曇った。


「父上からの帰国命令だ」

「エマ、父上からの帰国命令が出た。国に一度戻らないといけない、エマも一緒に来る様に」


「ミカサお姉様、私には課題がありますし、ご一緒はできません」

「儀式があるので、エマも来ないといけない、エマにはこの国の国王から招聘(しょうへい)に応じるよう命令が出されているはずだ」


 ポコタの代官に確認したら本当に招聘(しょうへい)に応じるようにと国王の命令が私に出ていた。そんなバカな。

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