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エマの苦悩、ミカサの卒業

 私のために多くの生命が失われた。私は眠るたびにうなされるようになった。

「エマ、だいぶうなされているね、どうしたの?」

「大行軍で多くの人たちが亡くなったのに、私は助かった」

「エマが死んでいれば、他の人たちは助かったと言いたいのかしら」


 私がいなければ、兄上も姉上も大行軍で亡くった方たちも死ななかったかもしれない。私が死に戻り前の性格になっていたら、どうなっていただろう。母上もホーエル・バッハの屋敷を放火しなかったかもしれない。内乱は起こっていなかったかも。もし、私に死に戻りの能力があるとすれば、私が死ねばみんな死なずにすむ未来があるのかしら。


 私はこのまま生きていて良いのだろうか。それとも、もう一度5歳の私に戻ってみる。私は今。多くの生命の上に生きている。簡単に死んではいけないとも思う。生き残った者の義務があると思う。


「エマ、この国って多くの人たちが争って、毎日多くの人が亡くなっているの。誰の責任かしら」


「貴族をまとめきれない王家の責任」

「王家の責任、ふーんバイエルン家は王家の臣下だよね」

「うちの家は代々王家の忠実な臣下だった。母上が幽閉されてからは忠実な臣下とは呼べないかもだけど、王家の方針に反対する事が多くなったから」

「王家の方針をこれまでその臣下が止めなかったから、この結果だよね、こうなったのは。王家だけに責任を負わすのっておかしくないかしら」


「王家とあなたたち臣下の責任で今も多くの人が亡くなったり、傷ついたりしてる」

「あなたも、苦しんで当然だと私は思うわ」


「この内乱が終わらない限り多くの人がこれからも亡くなるの、エマどうしたい」


「ローレンスさんとレクターは医者になれって言うけど、私は極々普通の女の子でしかないの。私にできることって言えば、慰霊のお花を育てるくらいしかできないよ」

「母上が幽閉されたから、もう医学部を受験しなくても良くなったし」


「そうなんだ、だからたくさんの魂がエマに助けてってお願いしているのに無視してるわけね、とんでもなく、自分勝手だよね」


「ミカサお姉様、私の周りに魂がいるのですか?」


「いるよ、たくさんの魂が、それぞれ勝手に話しているから耳鳴りみたいになってるけど」

「私には聞こえません」

「聴こうとしないから、エマは仙人とかに教えてもらったからできるはずだし」


 私は砂を一粒一粒乗せていくことに精神を集中した。聴こえる。何を言っているのかわからないから、順番に話してと思ったら、はっきり聴き取れるようになった。私はただ聴くことしかできなかったけど、ありがとうって言ってくれたみたい。


「エマ、戻ってきて」と言われてミカサの顔を見た。

「慣れないと連れて行かれるから、注意してね」

「連れて行かれる?」

黄泉(よみ)の国に連れて行かれるから」


「エマは、巫女もやって医者もやって庭師もやって農家もやって魔道具師もやれば良いと思うよ」

「そんなにたくさんはできません」

「できないと言うのはそれを全部やってから言ってほしい。まだ何もしてないし」ミカサの無茶振りが始まった。

「私は平凡な女の子です」


「エマは平凡な女の子じゃないよ。私の家系って女はみんな巫女の素質があったのに、数代前から一人とか二人しか巫女の素質がなくなって来たの。残念ながら私の妹にもないわ」


「私はある日、窓の外を眺めていたの。そしたら、たくさんの魂を引き連れて楽しそうに校庭を走ってる女の子を見たの。びっくりしたわ。私以上の巫女って見た事がなかったからね」


 ミカサが私にこだわる理由は私が魂に近い存在なのがわかるから。私は一度たぶん一度だけだと思うけど、死んでいるから。普通でも平凡でもない存在なんだ。私はそうは思いたくなかった。ありふれた女の子でいたかった。でも、私は普通でも平凡でもない異質な存在だったんだ。


「ミカサお姉様、私は普通でも平凡でもないのですね」


「エマが異能の持ち主なのは間違いない。その力をどうするかはエマ自身が決める?」


「私しか決められませんから。私の生き方は」


「エマ、ウチで巫女修行しない?王族待遇にするから」


「お断りします。巫女修行ではなく、私はこれ以上多くの人が亡くなったり、傷ついたりすることがないように生きてみます」


「エマ、よくわかった。ただウチの儀式って一人だとキツいのよ。手伝ってもらえると嬉しい。絶対に帰国は保証するから」


「しょうがないですね。承知しました。ミカサお姉様」


 ヒノモトから呼ばれたら必ず、ヒノモトに行くとミカサに誓いを立てた。しかし、ミカサは卒業式がすんでも、本国から至急帰国せよとの命令を無視続けたので、遂に第五王子が直々にミカサに会いに来た。これ以上ミカサ姫がこの国に残るとヒノモトの国が姫を我が国が引き留めていると思われるので、極めて外交上マズイ事になると説得していた。まだ10歳なのに、この王子は賢い。エリザベートは良い婚約者を得たと、久しぶりにニマニマしてしまった。

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