暗殺者の影を追う
「エンドラにはしばらく王家の護衛になってもらう。それと弱体化した国王軍の立て直しの任務をエンドラに与える様、国王陛下にお願いした」
「上手くいけば侯爵家から念願の公爵家に陞爵する事も匂わせておいた。
「問題は君の父上だね。エンドラから兵を動かすなと釘を刺されているはず」
「それを君に何とかしてもらいたい」
「この事は公表できない。内密で処理する必要がある。しかし人手が多い方が良いと言う矛盾したことをしなければいけない」
「エマ、多くの犠牲者の上に君は生きている、その重荷を生涯負って生きていく事になる」
私は泣き崩れていた。どうすれば良いのか。
「エマ、君の暗殺命令は未だに生きている、ここで潰しておかないと再び惨劇が繰り返される」
「ローレンス弁護士、私の命にかえても必ず、暗殺部隊を完全に潰します。二度と悲劇は起こさせません」
「君は多くの生命を救う人になりなさい。それが君に出来る償いだと私は思います」
母上が王城に向かったのを確認してから屋敷に戻った。実質的な当主である母上には事細かにバイエルン家の動きが報告されている。どう動けば良いのかまったくわからない。
父上に相談すれば、母上と相談するのと同じだし、母上のお気に入りのハンニバルに相談は可能だろうか。何とも言えない。いっその事「彼女」尋ねてみようか。「彼女」は未だに言葉を、泣き声すら発せないと言う。
レクターに相談してみるしかないのか。一番接点はあるので相談はしやすいかも。
「レクター、エマです」
「お姉様、悩み事ですか? 人手がほしいとか」
「レクター!」
「母上は王家の命で王城に行った、そのタイミングで姉上は帰って来た。父上にも兄上にも相談できずに、私の所に来た。答えはバイエルン家の兵士が借りたい。母上には極秘で」
「レクター、それは可能かしら」
「可能です。ハンニバル兄上は母上には秘密で直轄の部隊を育てていますから」
「その直轄部隊を私は借りられると思う」
「バイエルン家が潰されたら、兄上の野望は無に帰しますから必ず貸してくれます。おそらく条件付きでしょうけど」
「その条件って」
「それは兄上に聞いて下さい、そうですね、僕に相談したら兄上にまず相談する様に言われたと最初に言っておけば無茶な条件は付かないはずです」
「ありがとう、そうするわ」
「相談してもらえて嬉しいです。医学部受験の教科書ですが不完全なのでちゃんとしたものを今作成中です。僕へのお礼は、一つ、姉上は必ず医師になることくらいでしょうか」
私はハンニバルの所に行った。レクターに相談したらハンニバルの兄上に相談する様に言われて来たことを話した。もの凄く嫌な顔になっていた。
「レクターから僕の秘密部隊の事は聞いていますね」
「聞いています」
「一つだけ条件があります。姉上は必ず僕に協力する事です」
「僕の部隊をどこにぶつけるのですか?」
「バイエルン家の暗殺部隊の残党との戦いになります」
「厄介ですね、彼らは散らばっているので、まずは集めないと潰せません」
「姉上には悪いですが、囮になってもらいます。しくじった場合、僕の部隊は姉上を見捨てて撤退するのでそのつもりでお願いします」
「その条件、喜んで受けます」
「そう言う言い方はやめてもらえませんか。自分だけでも生き残るって言ってもらわないと計画が失敗するので」
「そう言うものなの?」
「初めから死ぬ気の人は使えません。諦めないで足掻く人が成功するのです」
「姉上は泳げますか?」
「泳げないわ」
「湖に静養に行って下さい。そしてボートに乗って舟遊びをして下さい」
「そこで罠を仕掛けます。彼らも完璧な計画だった雪山でしくじっているので、必ず全員で仕掛けてきます」
メイドのメアリー、メイドと言ってもメアリーも小貴族の娘なので湖のほとりに別荘を持っている。
「メアリー、私、色々と学校であったので、気晴らしに湖に行って舟遊びをしようかと思うの」
「あなたのお家って湖に別荘を持っていたわよね」
「はい、お嬢様小さい別荘ではございますけど」
「私、その別荘に行ってはいけないかしら」
「お嬢様に来ていただけるのは我が家の誉れになります」
「ありがとう、日時とかメアリーの方で決めて下さるかしら、色々用意もあるでしょうし」
「お嬢様、承知しました。全力でおもてなしをさせてもらいます」
「ありがとう。でも、そんなに一生懸命にならなくてもいいの」
「湖で舟遊びがしたいだけですから」
「お嬢様用の新しい舟を建造しないといけません」
「それはダメ、今ある舟に乗ります。お願いします」
「承知しました、お食事は頑張りますので」
「それは楽しみです」




