神と話せるもの、暗殺者の影
ミカサが国王陛下に私が鬼神から言われたことを伝えた。国王陛下は臣下に神殿と鳥居の建て直しを命じた。その後速やかに奉納品を納めるよう指示を出した。
「エマという娘は我が国に必要な者だと思う。お前の妹にはこの世ならざるものと話す力がない。巫女がミカサだけでは、私は不安だった」
「聞けばあちらの国は内乱との事、あちらも我が国との関係が悪くなるのは望ましく思わないはず。我が国がエマを招聘すれば、こちらに来るよう命じてほしいと親書を書こうと思うが、ミカサはどう思うか?」
「その内容で良いと思います、永住させるなどと書くと手放さないカードにするかもしれません、ただ『少納言』の位を授けておくと、我が国の庇護下にあるのが明確になるので必要な処置かと思います」
「そのように親書に書こう」
私は今回の功績でこちらの従五位下、少納言と言う爵位を賜った。ミカサによればこちらの貴族の中で一番下の爵位だと言う。もし私がこの国の者だったら中納言は確実だったらしい。私の夢は庭師兼業農家なので、爵位にはまったくこだわっていないと言ったら、ミカサはホッとしてくれた。
国王陛下から爵位の他にも色々と贈られたものがあったので、ヴィクターとウエルテル、にはその中から好きなものを選んで貰おうと思っている。ちなみに黄金は入っていない。布とかが多い、茶器も多いかも。
私は今回何も持って来なかったので、困っていたら、ミカサが「返せないので貰っておくしかない」「返礼は次回、こちらに来た時にするしかない」と言われてしまった。ああ、これでまたこの国に来ることが決定してしまった。次回も帰国できるだろうか不安だ。
帰りの船は往路より揺れて、カオリさんが船酔いで倒れた。なぜか私が看病をしていた。ミカサは主人なので手を出したくても手が出せない。身分制社会は本当に面倒だ。客人の私が勝手に看病していることになっている。カオリさんの爵位も少納言なのでちょうど良いらしい。
国に戻って来た。学校は既に閉鎖は解かれているはずなので私は学校に戻る。ミカサたちは、ヒノモトの国から王家への贈り物を届ける役割があるので、その後学校に戻ることになっている。
私は学校に着くなり新しい学校長に早速呼び出された。私は何かヘマをしたまま、ヒノモトの国に行ったのかと不安に思いながら校長室に行った。
「エマ・フォン・バイエルン、ただいま戻りました」
「どうぞ中へ入ってください」
校長室に入るとローレンス弁護士と見習いのユング君がそこにいた。
「ローレンスさん、ここで何をされているのでしょうか?事務所は?」
「エマ、私は何度も何度も断ったのだけど、事務所も忙しいし、王家からどうしても次の校長が決まるまでつなぎの校長になる様にと最後は王命が出されたわけで、とりあえず校長になってしまいました」
「ユング君お茶の用意お願いね」
「承知しました。ところでいつ法律を教えてくださるのでしょう?」
「その内ね」
ユング君はお茶の用意をするため、校長室を出て行った。どこかを蹴った音がした。
「今回の大惨事で貴族から訴えられているので、それが片付くまでいないとダメみたいです」
「エマには、山で何が起こったのかを実際に体験した君に尋ねたくて、君の帰国を待っていたました。君の友だちのヴィクターとウエルテルからは彼らがウンザリするくらい尋ねました」
「登山道だけど、君たちは最後に出発したのに中腹付近でヴィクターの腰まで雪が積もっていた。君の首の所までの雪が積もっていた」
「その時雪は降っていたのかな」
「雪は降ってはいませんでした」
「君たちは先に行ったグループが嫌がらせで元の状態に戻したと思った」
「はい、それ以外には考えられませんでした」
「ホーエル・バッハは一塊になって先頭を歩いていた。その後に王党派、無派閥の生徒が登山道を歩いた。それなのに君たちの前には雪が積もっていたのは不思議だと思わないかい」
「そう言われれば、そうですね。王党派や無派閥の子たちが嫌がらせをする理由がありません」
「誰かが、君たちを山の中に孤立させようとした。雪崩のタイミングも都合が良すぎると思わないかい」
「雪崩によって、やっと歩けるようになった登山道が雪にまた埋もれてしまった」
「あの日の天候を調べたらあの山だけが霧になっていた。これも都合が良すぎないかい」
「その誰かが私を狙った」
「私はその可能性が高いと思っています」
「メンゲレ男爵でしょうか?」
「可能性は捨てきれませんね。そうですね。ウエルテルは君を助けた。どうして。最初、君は単独で登ろうとしたのに、ウエルテルがそれを邪魔をしたのか。なぜ? 彼は君が狙われているのを、実は知っていたから」
「エンドラが出した君を暗殺する指示は撤回されていません。指揮官のメンゲレがその命令を無視しているだけです」
「彼の部隊は未だ解散はしていません」
「私の巻き添えで多くの人が亡くなった」
「エマには辛いことだと思いますけど、私はそう思っています」
「この事は私とエマとの秘密です」
「今回の暗殺計画の指揮を取ったのは氷雪魔法の使い手のアイゼンだと私は考えています。そこでエマにお願いなのだけれど、バイエルン家の私兵を借りたい」
「母上は絶対に許しません」
「わかっている。なので策を用いました」
 




