私のお庭が母上エンドラにバレた
母上の名前はエンドラです。
私としては薔薇の花園にしたいのですが、薔薇って目立つので避けました。母上にバレたら間違いなく薔薇がバキバキに折られるので。今はパンジーのお世話をしています。バレた場合を想定して何ヶ所か予備と言うかバックアップのお庭を用意して母上にバレても大丈夫な様にしています。母上に似て悪知恵だけは働く。これも才能なのかも、嬉しくなってまた顔がニマニマしてしまった。
普段着のドレスを汚すと、私ではなくメアリーが叱責されるので、メアリーにお願いして村の人が着る野良着を用意して貰った。すべて順調だった。油断した。普段なら屋敷に戻る前に全身隈なくチェックして綺麗な状態なのを確認して屋敷に入るのに、少し靴に泥が付いているのに気付かなかった。しかも母上と出くわした。最悪だ。
「エマ、なぜ靴に泥がついているのかしら?」
「散歩している時に付いた様です。以後気を付けます」
「エマ、村人が屋敷にお礼を持って来ました。生みたての卵ですって」
「それは今夜のお食事が楽しみですね」
「そうね、エマの卵ですものね。その人に尋ねたの。どうしてエマに卵をくれるのかとね」
「その人はなんと言ったのでしょうか?」
「エマはある物とチーズとかパンとか村ではとても食べられない様な美味しい食べ物と交換してくれるからって言っていたわね」
「エマ、そろそろ白状しても良いのでは、貴族としてあるまじき所業を」
母上はやはり私の母上です。性格が悪い。
「村に行って鶏糞、ニワトリの糞とチーズとかを交換しました、それが貴族の所業ではないとは、大袈裟です。母上」
「貴族が鶏糞なる物を直接村人から貰い受けるなどあり得ないのです。私はあなたの教育を間違えました。あなたは来週から幼稚部予科に入れます。貴族とは何かをしっかり学ぶ様に」
「承知しました。母上」
おかしいな。母上は兄上と姉上に掛かりきりで、私は完全に放置されていたのに、都合よく教育に失敗したとかおへそでお茶が沸いてしまう。
「メアリー、私は来週から幼稚部の予科に行くそうよ」
「それは良かったですね」
「どうしてメアリー」
「最初、エンドラ様はお嬢様との縁を切って屋敷から追放だとおしゃってましたから」
「それで良いのに、弁護士のローレンスさんの所に行けばお婆様から相続したお金で暮らして行ける。貴族などと言うしがらみから逃れられたのに、残念です」
私は父方のお婆様にとても可愛いがられていて、お婆様が残した莫大な財産を相続している。母上は何とかそれを取り上げようと画策していたが、弁護士のローレンスさんにことごとく先手を打たれて失敗している。私を殺せばその莫大な財産は教会のものになるので、母上は私を殺すことも出来ない。母上は人の命に一切の価値を見出さない。前の私は母上にそっくりだった。そう言う意味では、母上の教育は失敗してる。
王立魔法学校幼稚部予科か、確か魔法の勉強ではなく行儀作法を主に訓練される場所と聞いている。そこに入れられるのはとても不名誉な事とされている。簡単に言えば親の手にあまるヤンチャな子どもが入れられて、言葉は悪いが調教される所と言っても良い。確かあそこは鞭打ち、尻叩きが日常茶飯で、貴族の子弟から恐れられている。
私は爆死経験もあるし問題なし。毒親の元から離れられるので、喜びの舞を舞ってしまった。
「お嬢様、そんなに喜ばれたら、予科への入学が取り消されますよ」
「それは困る。しょげてる演技を入学までする事にしましょう」
「お嬢様、顔がニマニマされてます」
「メアリー、気をつけるわ」
予科に入学するまで私は頑張ってしょげてる演技を続けた。父上がそれを見て不憫に思ったようで母上に入学を取り消す様に懇願していた。絶対権力者の母上に逆らうとは生命知らずな父上です。父上は養子なのでこの家を追い出されると行く所がない。それに父上の実家は侯爵家のブランドで商売をしているので、そのブランドを失うとかなりマズいという大人の事情もある。侯爵家も父上の実家からお金を借りているので、ギブアンドテイクの関係でそう容易くは父上を追放出来ないけれどね。貴族って地位だけは高いけどお金は持っていないから。
私は幼稚部予科に晴れて入学する事になった。父上は目に涙をためて見送ってくれた。兄上や姉上を国一番の人間に作りあげるため、母上は見送りには出て来なかった。もしかしたら、母上の一番の被害者は兄上と姉上かもしれないと、少し胸が痛んだ。
次回からは幼稚部予科編が始まります。