エマの鬼退治
ミカサが海ではクラーケンを一撃で倒したとかとても強い巨大な熊を倒したとか、盛りに盛って私を勇者にしてしまった。念のため国王陛下は護衛に兵士百名をつけてくれた。ミカサも行きたがっていたが、姫君が戦場に行くのは良くないと言われて、ブスってしていた。おかしい、私も国に帰れば侯爵家の令嬢で姫君なのに。
兵士の皆さんに先導されて徒歩で都の北の山の中に入って行った。2本の柱が立っていたのでカオリさんに「この柱は何ですか」と尋ねると、神殿の門だったもの、「鳥居」の跡だと教えてもらった。かなり昔に倒壊した建物が見えてきた。カオリさんがあれは大昔の神殿だったものだと教えてもらった。とするとここは大昔は神域だった所なのか。そこに魔物が住むとは良い度胸だと思う。
カオリさんと兵士の皆さんにはそこで待機してもらって私だけが、その壊れた神殿に向かった。あれ、風が変わった。でも、これって魔物ではない気がする。
鬼が現れた。
「お前はこの豊葦原の者ではないな、外国人か」
「私は、エマ・フォン・バイエルンと言います。この国の者ではありません。鬼様と呼んでよろしいのでしょうか?」
「俺は神格を有しているので、鬼神様と呼ぶのが良い、かなり前から鬼、鬼と蔑まれているが、鬼神と呼ぶべき」
「では鬼神様、なぜ人に害をなすのでしょうか?」
「エマとやら仮にも神が人を害をなすはずがないとは思わぬのか?」
「つまり、神罰ということでしょうか」
「その通り。自らの武勇を見せたいのか、最近やたらと俺のクビを斬りにくる人間が多くてとっても迷惑をしている。神殿が壊れても修繕はしないわ、鳥居が落ちても直さないわ。本当に困っているのに。兵士が攻めて来てさらに神殿を壊すしで、本当にやってられない」
「鬼という魔物だと誤解されていますので、お許しください」
「豊葦原の者ではなく外国人に謝罪されるとは、この国は大丈夫か」
「それで俺に何の用」
「討伐するように言われてここに来たのですが、その必要はないと今は思っております」
「豊葦原の者は気は確かか? そなたが俺を討伐するだと、エマだったかな全力で俺を攻撃することを命ずる。俺は不老不死ゆえ討伐は不可能なので遠慮なくどうぞ」
「では全力でウインドミル」
鬼神様のもの言いが突然フレンドリーになった。
「うーーん3.5点かな。風の刃がブレブレ。威力はあるけど」「10点満点の3.5点ね」
風が爽やかに鬼神の体を通り抜けて行った様に見えた。私、なんかヤル気がなくなってヤサグレそう。
「エマちゃん、今から仙人のチャンって奴のとこに行くから、チャンに教えて貰ったら、刃がブレなくなる方法を」
「それはとっても嬉しいです。ずっと練習はしているのですが、上手くいかなくて」
「それじゃいくよ」
私は洞窟の前にいた。
「チャン、お酒飲まして、ツケでお願い」ってチャンさんにお酒タカリに来たのかよ。
「いつもいつもツケでお願いって払えるのかい」
「その子が神殿建て直してくれるから、これからはちゃんと収入も入るし大丈夫。チャン、その子、力の加減がわかってないので調整してあげてくれるかなぁ」
「コラ、勝手に洞窟に入るな!」
「お嬢さん、力の加減がわからないの?」
「はい」
「ここに砂を撒くので一粒づつ乗せて行ってくれるかな、上手く全部乗せられたら「コングラチュレーション」って声が聞こえるから」「頑張って」
「コラ、勝手に酒を飲むな、お前、神仙の銘酒『鬼殺し』を飲んでるし、お前って本当にバカなの、死にたいの!」
洞窟の中はとても賑やか。私は砂を一粒一粒積み上げているのだけれどもあと一歩のところで砂の柱が崩れてしまう。気合いを入れ直してもう一回。
やっと「コングラチュレーション」の声が聞こえた。疲れた。
「お前は飲み過ぎ、次はツケはきかないよ」鬼神様がほろ酔い加減で洞窟から出てきた。もの凄くお酒臭い
「帰るよ、神殿の修理、鳥居の修理と奉納品待ってるから」「修理が終わって、奉納品をもらったら、ちゃんと北からの邪気は防ぐから任せて」
私は壊れた神殿の前に立っていた。
「エマ様が目の前で神隠しになってどうしようかとミカサ様に指示を仰ぐため連絡しました」
「エマ、心配したよ」と抱きしめられて呼吸困難になった。
ミカサに、ここにいるのは鬼ではなく、北からの邪気を払う鬼神であること、神殿、鳥居の修理を急ぐこと、修理が完了しだい奉納品を神殿に納めるように言われたことを伝えた。
信じるか信じないかは、ミカサと国王陛下に任せよう。
 




