エマ二年生に進級
私は七歳になった。一年生の成績は、サバイバルキャンプのお陰で学年一位を獲得した。魔法学校では成績を累計計算するのでかなり有利になった。
ダイキチさんはふらっとやって来て、お団子食べて、お煎餅を食べてまたふらっと帰って行く。ダイキチ先生と呼ぶと怒るのでダイキチさんと呼んでいる。問題集を読んで図書室で調べてその問題の解答を答えると「惜しい七点」と言うだけで帰ってしまう。正解がなんなのか気になってしょうがない。
教科書の解読は進んでいる。理解できる所ができてきた。この教科書を書いた人は自分のために書いた本を教科書として売ったのがよくわかる。この本はメモ書きを適当に寄せ集めただけ。五十ページで最初の三行が書いてあってその後の文章が初めの二ページに数行が書いてあると言う構造? になっている。この本は断片だらけでしかも魔法学校で学習する範囲を超えている。
父上からの手紙にはハンニバルが二歳になると父上の執務を手伝う様になったこと。エリザベートは一歳になり将来は美少女になるのが確定したと書いてあった。婚約者の第五王子は喜ぶだろう。ただ他の王子から嫉妬されるのが怖いとも書いてあった。
レクターもゼロ歳なのに話し始めた。人間の心理の洞察が凄い。それとなぜか「Why done it ?」と謎の言葉を言う。ハンニバルも天才だが、レクターも天才。けれどもレクターには、言葉にはできない不気味さを感じてしまうと書いてあった。
「彼女」は赤ん坊なのに一度も赤ん坊らしく泣かない。不安だ。エマはずっと夜泣きをして寝不足で倒れそうだったと回想されていた。手のかかる赤ん坊って言われたみたいで何となく不愉快な気分になった。赤ん坊って泣くのが仕事ってよく言うよね。
エリザベートはいつも天使の笑顔だ。ここでこの一文を入れるのって私に喧嘩を売ってるわけ。
兄上も姉上も私も平凡な赤ん坊だった。下の四人が特別過ぎるだけだって。
父上の手紙の最後には、ハンニバルが母上を抑えるので、安心して屋敷に戻って来ること、進級祝いをすると言う。バイエルン家初の学年一位のお祝いもする。友人も招待するので同行してほしいと書いてあった。もの凄く罠の香りがする。二歳児に母上を抑えさせるってウチの家は大丈夫だろうか?
「私、進級祝いに出席するため実家に戻ります。罠みたいですが、友人も招待する様にとのことです」
「エマと私を暗殺するつもりかもね。面白い。エマ、私が一緒に行くから。カオリもね。でもヴィクターとウエルテルは危険なので今回は外す。良いよね」
「ミカサお姉様、肩書きはどうしましょうか?」
「そうだな、ヒノモト王家一族とでもしておいたら。姫君とかって言われると痒くなるから」
「父上の返事にその様に書いておきます」
私とミカサとカオリさんが友人として進級祝いに出席した。毒殺とかファイアボルトがドカンと来るかと思っていたけど、何も起こらない。母上は体調が悪いと言って参加しなかった。エリザベートと一緒に過ごしている。
「姉上、初めてご挨拶いたします。ハンニバルです」「ご機嫌ようハンニバル。父上の執務をその年齢でするなんて凄いですね」「いえいえ、弟のレクターなんてゼロ歳児で聖典を読みだしたのですから、彼こそ本当の天才です」
エマと言う姉だが極々普通の少女でしかない。年齢の割には頭が良いようだがそれだけだった。弟のレクターは異常だ。あれは完全な化け物だ。俺の手に余る。奴の邪魔だけはしないでおこうと思っている。上には上がいると初めて思った。奴は恐ろしい。
「姉上、お初にお目にかかります。レクターと申します」「初めまして、レクター、あなたはもう聖典が読めるのね。凄いわ」「私も不思議なのですが、読めてしまいます。文章の構造とありがちな内容なので多少推理すれば内容は分かります」「レクター、ゼロ歳児のあなたに頼むのは恥ずかしいのだけど、暗号文で書かれた本をあなたに読んでもらいたいの。ダメかしら」「暗号ですか、それは楽しみです。お引き受けします」
私は赤ん坊と普通に話しているけど、全然不自然に見えない。ミカサは楽しそうに見ているし、カオリさんだけが驚いている。ウチの家はこれが普通ってやつなのね。慣れるしかない。
レクターに医学部受験の教科書の解読を任せたのって正解だと思う。彼は将来医学部に入るのだから、レクターのためにしたこと。決して自分ではできないと諦めたわけではないの。そう私は思うことにした。