勇者パーティその2
ジェットラビットは勇者をボコボコにすると、戦いをやめて暗闇に姿を消した。ジェットラビットの姿が見えなくなると僧侶が駆け寄り勇者に治癒魔法をかけている。未だに第二階層だ。遅いよ。サクって行ってほしい。
「エマ様、こも男の子は勇者ですよね。もう少し森の野良魔物を狩ってからここにきた方が良いと思いますけど」
「そうですね。私が体術とか剣さばきとかを教えてあげても良いかなとは思ったりします」
「大魔王が勇者の師匠ですか? 世も末ですな」
勇者パーティがやっと第三階層に降りた。で、寝ている熊に遭遇した。
「あれって灰色熊ではないのですか?」
「先日、バイエルンで戦闘には不向きな灰色熊を購入しまして、第三階層の階層主にしました」
「ええっと、戦闘に不向きですか? 勇者をボコボコにしているようにしか見えないのですが」
「寝起きがですね。極めて悪いので集団生活に馴染めないのも、売却理由の一つでした。勇者パーティも寝ている灰色熊を無視すれば、こういうことにはならなかったと思いますよ。盗賊が寝ているから、スルーしようとか言ってたみたいですけど、勇者がその意見を入れず、熊に斬撃を与えて熊を起こした結果がこの有り様ですな」
修行だからスルーはできないよね。たとえ負けるとわかっていても。それに勇者は教会で復活できるし。
「このままだと、勇者の子が危ないかも」
「その心配はありません。もうすぐ熊が寝ますから」とダンジョンマスターが言った通り灰色熊はまた寝てしまった。「戦闘に不向きでしょう。この熊はひと暴れすると寝ちゃうんですよね」
「さて、エマ様、第二階層に転送しますので、この魔方陣の上に乗ってください」とダンジョンマスターに促されて魔法陣の上に乗った途端、元いた場所に戻されていた。
私はボチボチ勇者パーティが戻ってくる方向に向けて歩きだした。ダンジョンマスターが魔物を調整してくれるから、修行にはちょうど良い環境なんだけど。勇者の子にして見ればまさかの連敗で落ち込んでるかも。
勇者は両脇を僧侶と盗賊に支えられて、よろよろと戻ってきた。
「魔法使い、無事でなによりだ」こういうことがサラッと言えるのが偉い。自分はぼろぼろなのに。
「勇者様はかなりお疲れのようですね」
「今日は三連敗だから」僧侶も治癒魔法を使いすぎて辛そうだったので、私は、自家製のポーションを僧侶にあげた。
「僧侶様もお疲れのように見えます。私が作った魔力回復のポーションです。良ければお飲みください」
「有り難い。今、ここで飲んでも良いでしょうか?」
「はい」
僧侶はなんの躊躇いもなくポーションを飲み干し、魔力が回復すると勇者に治癒魔法をかけていた。良いパーティだと思う。
盗賊が俺にもポーションをくれよって顔をしていたので、体力回復のポーションをあげた。
「盗賊様、これは体力回復のポーションです。どうぞ」
「ありがてー。このポーションは薬ぽくない。飲み易い」と嬉しそうに盗賊はポーションを飲んだ。よく知らない私から渡されたポーションなのに、盗賊職が警戒せずに飲むのはどうかとふと思ったり。
勇者は疲れが一気に出たようで眠っていた。
「ダンジョン内は危険ですから、外に出ましょう」と私は言ってダンジョンの外に勇者一行を外に連れ出した。
私がダンジョン内にいると魔物たちが落ち着かないそうなので。勇者パーティのためではなく、ここで働くダンジョンマスターの眷属のため、魔物たちのために、私たちは、ダンジョンの外に出た。
私はこのダンジョンの関係者だしね。仕方ないか。納得できないけれど。
「外の空気はおいしいですね」
「そうですな。ほっとします」と僧侶が言う。
ムクリと起きた勇者が「僕は弱い」とポツリと言う。勇者は唇を噛み締めていた。
確かに聖剣と聖鎧でなんとか死なずにすんでいるだけだもの。
「勇者様は剣はどなたに付いて学ばれたのですか?」
「城の騎士に剣の使い方を教えられた。城の騎士から免許皆伝だと言われた」
勇者の剣筋ってブレまくっているし、免許皆伝ってお世辞にしろ言ってはいけないと思う。
魔王が聖剣と聖鎧でどうにかなる存在ではないのは、騎士なら知っているだろうに。この状態で魔族支配領域に入っていたら、即座に教会行きだったと思う。生き返るからマア良いかで、城を出された雰囲気が伝わってくる。死ぬのはめちゃくちゃ怖いのだ。




