トレイン
私はウサギ数千体を担当か、ファイアボルトの連射で燃やそうか? それともうウインドミルの連射でスッパと切断しようか。やっぱり環境に優しいファイアボルトで燃やそう。切断すると私は土魔法が不得意なので後片付けが大変だから。
「ファイアボルト」を連射した。ウサギは全滅したけれども狼と熊には効果がなかった。
ウサギの群れがいなくなるとカオリさんが狼の群れに向かって走り出した。メイド服姿で。カオリさんは狼の群れの中に入った。
「ミカサお姉様、カオリ先輩が狼の群れに飲み込まれましたが」
「見ててごらん」
狼の体が上下に綺麗に切断されて、狼の群れは全滅していた。不思議なことに一滴の血も流れていない。カオリさんが戻って来た。
「カオリ先輩、風魔法ではなかったようですが、どうやって切断したのでしょう?」
「それは秘密なの」カオリさんはそう言って微笑んだ。
「さて、私の番だけど私はものすごく地味なので嫌になる」ミカサが灰色熊に近寄るだけで勝手に灰色熊が倒れていった。
「カオリ先輩、ミカサお姉様はどうやって灰色熊を倒したのでしょうか?」
「ごめんなさい、それも秘密なの」カオリさんはそう言ってまた微笑んだ。
ヴィクターとウエルテルが次に制作する魔道具について話していた。こう言う結果を予想していたようだった。
「ヴィクター、ウエルテル、行くわよ」
「エマ、どこに行くの?」
「ヴィクター、ウエルテル、あそこに見えるのは何かしら?」
「切断された狼の群れと倒れている灰色熊たち」
「そうね、あなた達は今回活躍できなかったので、狼さん達と熊さん達をちゃんと土に返してあげないとだよね」
「頑張って埋葬してあげてね。私、土魔法は土ボコしかできないから」ヴィクターとウエルテルは魔力切れ寸前まで頑張ってくれた。
誰かが起こした魔物のトレイン、それもすべてが変異体と言うあり得ないトレインの殲滅が終わった。私は周辺に魔力反応がないか探ってみた。ほんの少しだが人の魔力を感知できた。しかしすぐに消えてしまった。生徒ではなくこの魔物のトレインを起こした人物の魔力反応だと思うので、念のため登録しておいた。似たような魔力を以前感じたことがあるのだけれど、思い出せない。
魔物のトレイン以後、何度か普通の魔物、変異体ではないと言う意味、との遭遇戦はあった。私がウインドミルでミンチにして、それをヴィクターとウエルテルが片付けてくれた。二人とも戦闘は嫌いって言うから仕方がないよね。ミカサたちは本来いないはずなのに、トレインでは活躍させてしまったから、リタイアの扱いになっていないかと不安で仕方がない。
私がやたら魔物をミンチにしたお陰で、ヴィクターがしばらく挽肉料理が食べれないとこぼしていた。ごめん。ウインドミルがなかなかカオリさんみたいにスッパって切れないから、証拠隠滅のため、ミンチにしましたとは言えなかった。
一月が経過したので教師たちがいるベースキャンプに向かった。私たちはリタイア扱いにはなっていなかった。ホッとした。私たちの他に3グループが残っていた。3グループとも最初のキャンプ地から離れたと言うか、追い出されたグループだった。魔物に襲われて逃げに逃げて、貴族はなら絶対に食べない種類の昆虫、両生類、爬虫類を食べて暮らしていた様でげっそりやつれていた。
大貴族派閥も王家派閥も、敵同士であっても必要とあらば手を組むと言う事ができなかった。校長の目論みは外れた。
私たちが森の中にキャンプを移してから数日後にホーエル系の貴族派閥と王家の貴族派閥が食料を巡って激突して多くの負傷者、主に男爵家の生徒たちが倒れてリタイアした。結果、子爵家の生徒達の負担が激増して子爵家の生徒達が次々にリタイアをした。伯爵家以上の家の生徒達は数日は我慢したものの飢えには勝てずリタイアをしたとの事だった。
お互いに協力すれば生き残れたのに。それと身分にこだわらず仕事をしろよ。
私はお陰様で学年1位になってしまった。医学部受験の道が開けた。医学部を受験して合格したら農学部とか園芸学部とか魔道工学部に転部するつもり。母上が私の邪魔をして不合格にするのを防ぐ手段としての医学部受験なので、もちろん医学関係の魔道具を作るので、医学の知識はほしいけれども、私が医者になりたいとまったく思わない。私は動物よりも植物が好きみたい。
ミカサが家庭教師を紹介してくれると言う、その先生は報酬の話をすると怒り出すので決してしないようにと言われた。じゃあ、お礼はって聞くとケーキとかお煎餅と言う焼き菓子とかお団子とか言う屋台で売ってるのを上げたらものすごく喜ぶらしい。
かなり変わっている人みたい。私は平凡な少女なのですぐに、医学部受験って無理だと言われて終わりそう。かなり気が重くなってきた。
来月から私も二年生になる。7歳だけど。父上から進級祝いをするから屋敷戻ってくる様にとの手紙が書かれてあった。母上は屋敷に戻ってからは気力がまったくなくなって、いつも独り言を言うか「エリザベート、あなたは可愛い、可愛い過ぎる」と言っては微笑んでいるらしい。ハンニバルは2歳にして父上の執務を手伝っている。レクターは基本文字も教えていないのに聖典を読み出した。「彼女」は泣くこともなく、虚空を見ているだけ。表情がまったくないので心配だと手紙に書かれていた。




