大旱魃その後
二度の大旱魃にユータリア王国は見舞われた。しかし、天界からの人工降雨と魔族からの水の支援、帝国の技術で作られた大規模真水製造機とミカサと私による雨乞いの舞で、深刻な水不足にはならなかった。エルフさんたちから送られた旱魃に強い木々になる実で飢えることは最小限に抑えられた。父上たちが品種改良した旱魃に強い小麦もよく実った。
残るは今年の大水害を乗り切れば龍人たちの罰は、乗り切れるはず。ウエルテルが中心になって河川の付け替え、河川が氾濫した時の遊水池も用意したので、大きな被害はないはず。問題なのは食料の備蓄が本当に心許ない。ずっと雨で太陽が顔を出さないために、日照不足が深刻。作物があまり育たない。これは考えていなかったので私はかなりこたえている。
「ウエルテル、今年の小麦はどれくらい収穫できそう?」
「このままだと昨年の七割ってところかな」
「昨年の七割って。深刻な飢饉が予想されるのだけど」
「帝国を除いた人間の支配領域は飢饉が予想される」
「そう、エルフさんのところに行って、食料支援をお願いしてきます。それと魔族支配領域で畑を耕しているゆきちゅんから連絡はあった?」
「魔族第四軍団が協力して順調に作物が育っているようだよ」
「助かるな。でも魔族の最精鋭エリート軍団がよく畑作業を手伝ってくれたわね」
「手伝うしかないと思うよ。上司が一人休みなく畑作業をしているのだから」
「ゆきちゃんて第四軍団の軍団長だものね」
私は精霊の衣装、青い服を着てエルフの里にヴァッサで飛んだ。エルフさんたちが出迎えてくれた。「エマ様、何度も言っておりますが、里にまずは先ぶれをお願いします」と着いた途端、エルフの長老さんから怒られた。
先ぶれを送ると宴会が用意されてしまい、宴会優先で会議ができないのを学習したので、今日みたいに急ぐ案件は先ぶれをなしにしている。どのみち会議中に宴会の用意をするのだから。
「ごめんなさい。長老様、お願いがあってここに参りました。ユータリアは日の光がささず、長雨で作物の育ちが悪くて、小麦は昨年も不作でしたが、今年はさらにその七割ほどしか収穫できないと予想しています。どうかエルフの里から、ユータリアに少しでも良いので食料支援をお願いしたいのです」
「エマ様、食料支援はいたします。ただし一つ条件がございます。この会議の後の行事に最低三日間は参加すること。途中退席は認めません。中座は認めます」
「承諾していただきありがとうございます。行事に三日間の参加ですね。了解しました」エルフさんの宴会って始まるといつ終わるのかわからないから、期限を切ってもらうのはありがたい。
三日間の宴会をこなして、魔王城に向かった。ゆきちゃんの畑はすぐに見つかった。魔王城周辺の森が消えて、畑になっていた。凄い!
魔族の人たちって基本的に狩猟、採取な人たちなので、農耕も牧畜もほとんどやっていない。それなのにこんなに広大な畑を作ってくれるなんて、感謝感激だ。
畑に近づくと、あちらこちらに魔族の兵士が倒れている。戦闘でもあったのだろうか? 私は一人一人に癒しの魔法をかけて回った。
兵士の一人がムクリと起き上がって私を見たら「大魔王陛下万歳」と言い出した。それに気付いた魔族の兵士の皆さんが、タイミングをそろえて「大魔王陛下万歳」と唱和している。
当初は恥ずかしくて、やめてほしいと四天王さんにお願いしたのだけれど、四天王さんが兵士たちの心からの感動の声、感謝の叫びは止められないのですと苦笑していた。いやいや、四天王さんが、最初に始めたのを私は知っている。結局、魔王城にくるとこうなるのだと、私の方が諦めることにした。相変わらず慣れないけれど。
「軍団長はどこかしら?」と兵士の一人に尋ねた。
「軍団長閣下はあの岩山のところにおられると思います」
岩山はまだあった。今は山というには高さが足りないかもというくらい低くなっている。私はヴァッサで飛んで岩山に行ったら、ゆきちゃんと第四軍団の幹部の皆さんで岩山を砕いていた。
「エマさん、良いところにきました。岩山の真下の地面に穴をあけてください」
「良いけど」私は岩山の真下に大穴をあけた。砕かれた岩がドーンと下に落ちた。
「もう少し深くしてもらえますか? 岩山があったところに土を入れて畑にしたいので」
「了解です。このくらい?」
「はい、オーケーです」
「ゆきちゃん、作物は順調ですか?」
「はい、問題ありません。ウエルテルから聞きましたけど、小麦が不作みたいですね。残念ながらその不足分を補うのは難しいと思います」
ゆきちゃん、一人で基本耕作している畑だから。当然だと思う。できれば魔族の人も農業をしてほしいとは思っている。ここの土地って肥えているから、作物がよく育つと思うの。でもまあ、魔族の文化を尊重すると、言えないけどね。




