教皇様たち
帝国には帰れない教皇様たちだけど、ユータリアの王宮で育てるわけにもいかないし、さてどうしたものか。
「宰相、帝国の教皇様ですけどどこで育てれば良いのでしょうか?」
「そうですね、現状だと孤児院になりますね」
「やはり孤児院ですか」ユータリアには貴族専用の孤児院がないので、非常に困っている。
「寄宿制の神学校を創設するのも可能です。ただ乳児院を併設しないと今回は対処できませんけれど。帝国が、その分の養育費を支払ってくれるのであれば問題ないかと愚考します」
教皇様が信仰しているのは初代皇帝。神学校で教えるのは元神々の天界の人たちなんだけど、教皇様は納得できるだろうか? 頭が痛い。帝国に帰れないとわかれば、教皇様が自暴自棄になるかもしれない。
「教皇様、お話がございます。大変申し上げにくいのですが」
「皇帝陛下が私たちの帰還を拒否したのですね」
「はい、その通りです。教皇様が帝国に戻ると魔女狩りが激化すると皇帝陛下はお考えのようでした。私はそうはならないのではと思うのですけれど」
「皇帝陛下のお考え通り、私が帝国に帰還すれば魔法狩りをさらに推進するつもりです。魔法は恐ろしいですから」教皇様の目の奥に暗い炎が見えたように感じた。
「魔法は恐ろしいですか?」
「私たちをこの様な姿に変えるのは、自然の理に反しています。私たちをハエに変えることも、このように子どもにすることも、自然の理に反しています」
「教皇様、それが魔女狩りを推奨することとどう繋がるのですか? 私には理解できません。また魔女ではない女の人たちを捕らえて、火刑にする、拷問で殺すなどということは、私には納得できません」
「彼女たちが本物の魔女でないことは、今回の事件で理解しました。私たちは本物の魔女にはとうてい敵わないということをです」
「だったら魔女狩りなどという無法な行為は止めるべきです」
「彼女たちは教会の許可なく未来を予言したり、病を治しました。それが彼女たちの罪だと私は思います」
「未来を予言する。人を治療するのは神にもっとも近い教会の者のみが行うことができると私は信じています」
「本物の魔女ではないのに。占い師だったり薬師をしている女の人を罪人扱いするのは間違っています」
「それがどうかしましたか? 教会の許可さえ取っていればなんら問題はないわけです」
「無許可だからって死刑って有り得ません!」
「なぜでしょう? エマ様がおっしゃっていることがわかりません。市民は喜んで魔女の処刑を見ているのに。私は市民に娯楽を提供しているつもりですが」
教皇様にとって、帝国の市民にとって魔女狩りで捕らえた女の人を処刑するのは娯楽なんだ。教皇様を帝国に帰すのは問題が確かにあると思う。できればユータリアにもいてほしくはない。人間の生命をなんと思っているのか。まったく理解できない。
「教皇様、教皇様には二つの選択肢がございます。一つは平民の孤児院に行くか、それともユータリアの神々について学ぶ神学校に行くかでございます」
「私がこの王宮で暮らすという選択肢はないのですか?」
「はい、ございません。教皇様に与えられた選択肢はこの二つです」
「私以外の者たちはどうなるのでしょうか?」
「教皇様が選んだところに行くことになっています」
「私が神学校に行けば、この者たちは神学校に行き、将来はこの国の神に仕えるわけですか」
「そうなりますね」
「エマ様は将来とても優秀な神学者を三名も得るのですか。羨ましいです」
「教皇様は、神学校に入られるのですね」
「私の信仰は変わらず初代皇帝陛下に捧げます。決してあなた方の神に仕える気持ちはございません」
「承知しております」
「教皇様、神学校はこれから建てますので、しばらくは王宮でお過ごしください」
「エマ様、ありがとうございます」
教皇様がかなり危ない人なのがわかった。父上と似ていると思った私は人を見る目がなかった。反省しなければ。神学校では生命の尊さについて絶対に教えないといけないとも思った。
アール君には魔女狩りを禁止するように言わないといけない。占い師の女の人が、民間の薬師の女の人が、市民の娯楽で処刑されるなんてあってはいけないもの。
レオニーさんが、私に市民が皇帝に不満を持った時に、歴代皇帝が教皇にお願いして魔女狩りを起こして、市民の不満を偽物の魔女に向けてきたということを教えてくれた。そしてレオニーさんもまた皇帝であった時、教皇にお願いして魔女狩りをさせていたと告白されてしまった。
レオニーさんを責めるつもりはまったくないけれど、私が魔女だということもあって、魔女狩りはやめてほしいと訴えたら、アール君は、二度と魔女狩りはさせないと誓ってくれた。それが政治的に正しいことなのかは、私にはわからない。でも、魔女として処刑される女の人が今後生まれないことは正しいことだと私は思う。




