賢者の石の材料は?
「レヴィ様、説明すると長くなるので、後日ゆっくりお時間をいただいて、本当にゆっくり説明しとうございます」
「今回レヴィ様にお尋ねしたいのは、今現在進行形で神代の呪いを受けて人間が魔物化しております。イアソー様から解呪は半年でできると言われ、解呪の見通しは立ちましたが、解呪までの間に魔物化した所は元に戻らないと言われました。確か賢者の石でマータリンクさんは精霊になったと伺いました。その時、マータリンクさんに人間に戻らないかとおっしゃっていたと思います」
「このくらいの賢者の石が一つあれば、元の人間に戻れるとは思いますが、さて賢者の石を作成する材料をどういたしましょうか?」と指で石の大きさを示しながらレヴィ様が言う。
「特別な材料でしたら私が取って参ります」
「特別な材料はございません。どこにでもあります。ただし先ほどの大きさの石だと赤児が数百人ほど必要かと思います」
「レヴィ様、もう一度おっしゃっていただけますか!」
「賢者の石の材料は人間でございます」
「赤児を錬金術で溶かして結晶化させると賢者の石になります。賢者の石が赤いのは血の色だからです」
「まさか!」
「賢者の石とは人間を結晶化したもの。赤児が材料として適しているのは不純物が少ないからです。成人だと不純物が多いので、万単位の人数が必要になります」
「私とマータリンクは材料欲しさに、過去何度も各国を戦争に導き、賢者の石の材料を集めました」
「そんな……」と私は言った。胃の中にあるものをみんな吐きそうになった。目の前にいる方は本当に賢者様なのだろうかと疑った。
「エマ様、どうされます?」
「そんな石は不要です。未来永劫絶対に作ってはなりません」
「エマ様には賢者の石が必要なのでは」
「私は医者です。人間の命を助けることはあっても奪うことはしたくありません」私は震えながらも、か細い声で宣言をした。
私は今、賢者レヴィ様と私の肩にとまっていふマータリンクさんが心底恐ろしい。
自分たちの目的のために人を殺めるなんて。でも、私も前世では多くの人を殺めてきた。なんの罪の意識もなく、ただ邪魔という理由だけで。私の手も汚れている。レヴィ様をマータリンクさんを責める資格なんて私にはないと思っている。
「エマ様大丈夫ですか?」とレオニーさんの温かい声が嬉しい。
「ありがとうございます。レオニー様」
「レヴィ様、賢者の石を用いずに人間に戻す方法はございますか?」
「神代の呪いですから、通常の魔方陣では無理だと思います。どうしても人間に戻したいのであれば、神代の言葉を理解した上で新たな魔方陣を作り出すしかないかと思います」
「神代の言葉ならユグドラシル様より学ぶほかないと思う。エミル神はあの通りのお方ゆえ」とマータリンクさんがつぶいた。
神代の言葉の理解と新しい魔方陣の開発をこの平凡が服を着て歩いている私にできるのだろうか。私はハンニバルやレクターのような天才じゃない。でもやるしかないのか。
私は顔を上げた。「ユグドラシル様のところに行きます」
「エマ様、待った」と大声を出したのは美少年のルイス君だった。「戴冠式をお忘れではございませんか?」
「忘れてはいませんが、そんな儀式人形で代理ができます」
「ダメです。各国の要人が来られるのに人形ゴーレムですまそうとするのは」
「エマ様、私も神代の言葉の初歩なら教えられます」と呆れ顔のレヴィ様が言う。「マータリンク、お前はそこそこできるのになぜ黙っているのか?」
「精霊の王としてではなく、元錬金術師のマータリンクなら問題なかろう!」
「レヴィ、私にもしがらみがあって」
「我らの罪を償う好機ではないのか」
「う……。承知した。協力する」
私はレヴィ様から神代の言葉の初歩の初歩を学んでいる。ぼんやりとしか理解できない。この調子では、神代の言葉の初歩を理解するだけで一年が経ってしまう。
なぜ私が神代の言葉をマスターして新たな魔方陣を開発しないといけないのか? 私って丸投げでここまできたのだから、今回も丸投げしても良いのでは。とはいえレヴィ様には何やらやることがあるようでレヴィ様にお願いするのは無理だ。マータリンクさんは言葉を教えるだけという縛りがある。これって専門家チームでやらないと無理な課題だと思う。
私がやるべき事は専門家チームを結成しまとめることだと思う。そう、そう思うことにしよう。だって本当に無理なんだもの! 文句があるなら私に言ってほしい。心から謝罪するから。「ごめんなさい」って。




