ザッツ平原
ザッツ平原で一月、キャンプをする。私のグループは特別参加のミカサ、カオリさん、ヴィクターにウエルテルと私の5人に結果的になった。一年生のグループは派閥ごとにまとまっていた。各派閥が独自に動くかと言えば、各派閥ともさほど距離を取らずに各グループがテントを張っていた。
広大なザッツ平原なのに、各グループは分散せず、密集している。しかし協力体制は皆無、逆に足の引っ張りあいをしている。一月のキャンプなのに食料一週間分しか携行していない。いずれ食料の奪い合いになるのではと私は思う。私たちのグループは早めに移動しようと考えている。
ザッツ平原に最初の夜がやってきた。テントの外には怨念のこもった声が聞こえる。神聖魔法がかけられたお守りを各自握り締めて、そのおぞましい声に耐えていた。思っていた以上にここは精神的にキツい。ミカサはとっても楽しいそうだ。カオリさんが言うにはミカサは国では巫女と言う神に仕える者なので、この世ならざるものたちに慣れていると言う。私は絶対に巫女にはなれないと思った、ザッツ平原の初日の夜だった。
次の日ミカサとカオリさんは二人で黒の森に入って行った。「ミカサお姉様、危険なのでは」「エマ、危険なのは死者ではなく生きている者たちの方が危険だ」と言って森に入って行った。
私とヴィクターとウエルテルは協力して小動物を狩ったり、湧水を見つけ水を汲んだりしていた。料理当番はヴィクターになってしまった。私もウエルテルもそんなに不味い料理ではないと思うのだけど、下ごしらえとかいう工程が不十分なので、ミカサから、ヴィクターについて学ぶ様にと言われた。カオリさんが「私が作りましょう」と言ってくれたのに「校長からの条件に助言のみ許可、手出しをしたら私のグループはリタイアとみなす」って校長から言われているので手伝はできないとミカサは言う。マア上級生が入ってくれてるだけ私たちのグループは優位なので仕方ないかと諦めた。
他のグループは身分制社会そのものを体現している、伯爵家以上の生徒は指示のみで動かない。子爵家はそれなりに動き、男爵家の生徒は水汲み、狩り、料理と大忙しだった。
一週間が過ぎ、ミカサが黒の森に水場を見つけたので、キャンプを黒の森に移動すると命令(助言)をしてくれたので、私たちは黒の森でキャンプをする事になった。
「これからあそこは、生徒同士が戦う場に変わる。水も食料もあの周辺にはなくなった」
「この森の死者はさほどの怨みは抱いてないから安全よ、逆に森の外の生きてる人間の方が怖い」
夜になるとミカサはテントの外に出てこの世ならざる者たちの話をただ聴いている。するとこの世ならざる者は天に召されて行く。
「ミカサお姉様、お体は大丈夫ですか?」
「問題ない、北の杉林にはウサギが多いようだ。水は西に行けば小川が流れているそうだ。魚も多い。その側にはダイコンとか言う白い植物が美味しいらしい」
ミカサのお陰で豊かな食生活を私たちは送っている。一度気になって森の外を見に行ったら、そのあたりでキャンプをしていた生徒たちはどこにもいなかった。かなり争った跡が残っていた。
ミカサは「おそらく男爵家の生徒が嫌になってリタイアした。次に子爵家の生徒がリタイアしたことで伯爵家以上の生徒もリタイアしたはず。ここでキャンプしているのは、私たちを除いて、男爵家の生徒だけの小グループだけだろう」と言う。
男爵家の生徒にとって成績が1にされてもさほど影響はない。なぜなら自分の仲間が全員1なのだから、スタートラインに戻るだけ。キツいのは学年トップを維持してきた伯爵家以上の生徒たち、これまでの努力が無駄になるから。
この課題は学年10以内に入らないといけない私にとってはチャンスだ。上位陣が全員下位に沈み私が上がるのだから。しかしそう都合良く行くだろうか? ここは魔物の領域ザッツ平原なのに未だに一体の魔物にも出くわしていない。これはおかしい。何かの罠ではないだろうか?
数キロメートル先に砂煙が上がっている。
「お嬢様、あれはトレインではないでしょうか」
「間違いなくトレインだ、真っ直ぐこちらに向かって来ている」
ミカサもカオリさんも楽しそうに見える。なぜかヴィクターとウエルテルは岩の上に腰掛け観客気分になっている。
「ミカサお姉様、あの砂煙から考えて数千頭の魔物のトレインだと思います。回避する方が良いと思います」
「そうだね、自然発生のトレインなら、面倒事は避けた方が魔力の無駄遣いをしなくて済む」
「でもあれは誰かが意図的に仕組んだトレインだ。ここで迎え撃つ方が無難だな」
「お嬢様、灰色熊の変異体が20体、狼の変異体が30体、残りはウサギの変異体が数千と言ったところでしょうか」
「カオリはどの獲物が良いか?」「お嬢様、私は狼がよろしいです」「なら私は熊でいこうか」「エマ、ウサギを頼む」と仕切るミカサだった。