教皇様救出その3
「ムーラ帝国もやっと地上に戻ってくる気になったのはとても喜ばしいことだ」
「いえいえ、ムーラ帝国は海底での生活に満足しているので地上には戻ってこないですよ」
帝国のエンジョイ引きこもりライフは続くのだ。
「ムーラ帝国は熱核爆弾を保有している。天界を消滅させ得る力があるのに非常に残念だ」
「イアソー様、この虫かごの中の人たちはムーラ帝国の要人ばかりです。このままハエになるとですね。ムーラ帝国が地上に戻るのがさらに難しくなります」
「ほう、ムーラ帝国の要人か。完全に魔物化する前に解呪してやると約束した上で、解呪後ただちに天界に宣戦布告するという条件をつけてみるか」
「ムーラ帝国の熱核爆弾は今のところ天界には届かないそうです」
「それは本当に残念な話だ。とりあえず帝国の臣民が地上に戻り、天界まで届く熱核爆弾を開発する事で良しとしよう。私も何か自分に褒美がないとやる気が出ないからな」
イアソーさんて天界のこととなると超過激になるから困る。私は魔物化した人間を元に戻す方法を賢者レヴィ様に尋ねようと思う。賢者の石でなんとかならないものか?
「エマ、解呪が上手く行くかどうかは保証できないが、やれることはやるのでその虫かごをここに置いていけ」
「ちゃんと世話をしてくださいね」
「私がそんなことをするわけがないだろう。召使いがやる」
「では、その召使いさんに愛情を込めて世話をするように言っておいてください」
「食べないようにとは言っておく」
「食べる?」
「おやつに丁度良い。とはいえ完全に消化するまではかごから出られないが」
「イアソー様、おっしゃる意味がわかりません」
「魔族には体を小さくできる者がいる。私の召使いもできる。体を小さくしてかごの網から中に入って中の人間を食べる。その人間にはディアブロの呪いがかかっているので、完全に消化するまで、かごから召使いは出られない」
「召使いさんにくれぐれも中の人たちを食べないように言ってくださいね」
「良く言い聞かせておく。ただ二、三人はいなくなるかもしれない」
私は魔王城にきたことを後悔している。まずは賢者レヴィ様に聞くべきだった。
解呪についてはイアソーさんに任せるしかない。最悪、全員がハエになったら魔族の国で、人間に戻る目処がつくまでここで過ごさないといけないから。
ところで魔王城見学の皆さんとういうか、一名はいつも通り魔族の兵士たちに訓練をつけていた。ゆきちゃんは魔族第四軍団長という肩書きがついていた。魔族第四軍団は魔族軍の精鋭が集められたエリート軍団らしい。が、訓練場に立っている魔族さんは一名。後の皆さんは訓練場で伸びている。
「魔族軍最精鋭部隊が小一時間で地面とお友だちとは残念です」
「軍団長が強すぎるのですよ」
「でも、一名とは言え立ったまま話せる方がいて嬉しいです」
「お褒めいただき有り難いのですが、これでやっとなのが悲しいです。もう一戦できるだけの力がほしいものです。軍団長閣下」
「前回と比べると魔力、体力、精神力とも一段階上がっています。皆さん誇って良いと思います」
「意識のある奴ら聞こえたか。軍団長から褒められたぞ」
何人かの魔族さんが手を挙げた。
魔王城の展示品に興味津々だった皇帝陛下はカッコ悪いことになっていた。アズサちゃんとレオニーさんに守られている。魔族の子どもから「お前人間なのによく魔王城に来られたな」って質問をされたら固まった。
「私のお客様だから、もう少し丁寧に喋ってあげてね」と魔族の子に声をかけたら、「大魔王様のお客様とは知らず無礼な振る舞いお許しください」と魔族の子が跪いてちゃんと挨拶ができた。
「あなたは礼儀作法をよく学んでいますね。大変けっこうです」
「父上と母上は礼儀作法には厳しいですから。父上も母上も大魔王様から直接お言葉を頂戴できたことを喜ぶとと思います」
「エマ、そなたは魔族の王なのか?」
「次の魔王が成長するまでの繋ぎの王です」
「しかし、港に着いて以来そなたは、すべての魔族から大魔王と呼ばれているように思うのだが」
「しかも、エマの部下のゆきは魔族第四軍団長というではないか?」
「いつの間に軍団長になったのか、私もゆきに尋ねたいと思っております。私も知りませんでした」
「魔王城見学のご感想は?」アズサちゃんが答えた。
「強大な魔力となぜか強大な神気を感じました。聖魔が一体になっているように思いましたとさすがは異端審問官。的確な感想だと思う。
「確かに、魔が魔がしいのですが、魔族の方々はなんというか悪気がまったくありません」とレオニーさん。
「朕は弱い。本当に弱いことを実感した」訓練の時期を増やさないと、あと、エマの副官と魔族の兵士との訓練を見て、朕はいつも手加減されていたことに気づいた」
「陛下は兵士ではないので、そこまでの訓練は必要ないかと」
「エマや母上を私は守りたいのだ」男の子らしくて良いのだけど、私は智将が好きなんだよね。アール君には戦略とか戦術を勉強してほしい。できればそういう才能のある人を使える人になってほしい。




