教皇様救出その2
気が重い。私が「魔王城に行きます」ってアール君に話せば、「朕も行く」と言い出すに違いない。レオニーさんも魔王城が見たいと思う。何しろ魔王城って当たり前だけど普通は入れない。王侯貴族であろうと皇帝陛下であろうと。なのでみんな行きたいと思うわけで。危険はないのだけれど、人間が行くところでもないと思う。何しろ調度品が人の骨でできていてグロいから。子どもの頭部の骨を使った椅子の持ち手はマジで気持ち悪いもの。
冢宰ことデルフォイさんは無事戻ってきた。でも、とても無口になっている。百年後の地獄行きを楽しみにしているようだ。時々「地獄だ」ってつぶやいているから。
私は皇帝陛下に教皇様が入った虫かごを示し「この呪いを解呪できる者が魔王城におります、私はその方に呪いの解呪をお願いしようと思います」
「教皇様のためだ、朕も同行する」「陛下がお行きになるのなら私もお目付役として同行いたします」とレオニーさんも乗り気だ。ゆきちゃんは当然同行するし、アズサちゃんも当然同行する。
魔王城見学ツアーなのに女子比率が高い。今回はお忍びなので皇帝専用船は使用せず、ハヤテ丸で魔族支配領域に行くことにした。もちろん私の衣装は全身青色の精霊服。この服を私が着ると精霊の王を除いて、他の精霊さんたちの機嫌がとても良くなる。
精霊の王の不機嫌服の原因は「エマ様が精霊の王に相応しい」と他の精霊さんたちから日夜言われ続けるから。青い小鳥さんも「代われるものなら代わっている」とぽつりと言っていた。
アール君はハヤテ丸に乗っている男性がが自分一人だけなのでややテンパっている。なぜだろう。船が狭くて密着度が高いから?
虫かごの人たちは私が自分の船室で保管している。トイレとか、水やりとか、食事とかはアズサちゃんがやってくれている。私はオモチャ(試作品)の洗濯機を作って、洗濯を手伝っている。洗濯物を洗濯機にいれるのが私の役目。この役目を勝ち取るまで、私は二日間寝ずにアズサちゃんと議論を交わした。干す、たたむはアズサちゃんがやってくれている。
問題は虫かごにお風呂が入れられないので、体を拭くくらいしかできない。虫かごの中の人からお風呂の要求がすごい。
虫かごごと湯桶に浸けるのが一番手取り早いのだけど。一度やればお風呂、お風呂って言わないと思う。
魔族支配領域の港に着く前に、魔王城に向けて使い魔を出した。私たちを迎えにくるように、元魔王四天王の魔族さんに、名前が長くて覚えられなくて、いつも四天王さんお願いで済ませている。
港に着くと、祝砲がなって花火が打ち上げられて、儀仗兵が整列して、港湾関係の偉いさんとその地区の偉いさんの祝辞の後、ケンタウロスさんがたちが引く馬車に乗せられて、魔王城に向かった。
お忍びだって言っているのに。四天王さんの好意なので素直に受けるけど。困るよ。
魔族のみなさんが「大魔王陛下万歳」の声が胸に刺さる。私って魔女じゃなくて大魔王なんだ。それなのに、ここにいる人たちって誰も気にしていない。
「ゆきちゃん、私って大魔王なの?」「エマさんは人間界では勇者なんですけど、魔族のみなさんは勇者万歳とは言えないでしょう。それで大魔王万歳なんでしょうね」
「エマさん、そういう細かいことを気にしていたら背が伸びませんよ」ってゆきちゃんに言われてしまった。最近、背がなかなか伸びなくなったので私は少し悩んでいたりする。もっと牛乳を飲まないとダメかな。
魔王城に到着した。イアソーさんが出迎えてくれた。猛烈に神気を発していたので、魔族のみなさんが近寄れない。
「イアソーさん、かなり強い神気が出てますけど」
「エマのファンが多いので虫除け対策をしている。それとだが、エミル様は新たな物語を執筆中でどこにいるのかが不明。呼んでも出て来ない」
エミル君の手助けはないって言われた。元々期待していないし。
「あのですね。この虫かごを見てもらえますか?」
「ディアブロの本気の呪いか。私も初めて見た。さすがはディアブロだ。欠点が一つもなく美しい」
「イアソーさん、解呪できますか?」
「エマが私を頼るのは計算に入っているはずなので解呪はできるはず。問題は猶予期間が一年間しかないこと。今も現在進行形でこの虫かごの中の人たちは魔物化している。遅くても一年後には全員が魔物になって虫かごから出ることになるだろうな」
「とくに意思の弱い者は既に背中にハエの翅が生えているはずだ」
そういえば、お風呂っていう人の数が減った。後、こっそり腐りかけの魚がほしいっと言う人は増えてきてる。
「あのう人間に戻れますか?」
「不可能だ」
「幸いここは魔族支配領域。魔物化しても困らない。どうせハエになるだけだしな」
「ところで、エマ。あそこで熱心に勇者の武具を見ている、気持ちの良い少年は誰かな」
イアソーさんが展示している勇者関係の展示物は人気がなくて、まったく見てもらえない。私の大鎌のレプリカとか魔王討伐では使用していないのに展示されているレイピアとか剣とかが大人気で、順番待ちになることもあるらしい。エミル君が話を盛ってくれたおかげだ。
「あの子はムーラ帝国の皇帝陛下です」




