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神殿

 私たちは、まさに廃墟って感じの海底都市に着いた。この街は主戦場になったため、住民の大半は反対側の居住区に移ったか、別の海底都市に移動したそうだ。


「酷いあり様ですね」と私はポツリとつぶやいた。



「私が幼い頃に来た時は、本当に美しい街だと感動したのに」と大粒の涙をアズサちゃんが流していた。


「白亜の街がむごいことになりました。再建まで十年以上かかります。大理石の産出が帝国では極端に少ないですから」


「デルフォイ、大理石があれば再建は早まりますか?」


「ええ、大理石があれば五年程度で」


「わかりました。ユータリアから大理石を運び入れます」


「エマ様、大型の海底船の建造には後一年は必要ですが」


「私が責任を持って運ぶので心配しないでください。デルフォイ、神殿はどこでしょうか?」



「あそこにありました」とデルフォイさんが指差したところはただの広場だった。


「アズサ、これから聞くこと、見ることは極秘です。他言無用です」


「承知しております」アズサちゃんは皇帝陛下から付けられたお目付役なので、私には人払いができない。アール君って束縛系男子なので私には合わないと思う。言わないけど。


「予備の熱核爆弾のスイッチはどこに?」


「少しお待ち下さい」とデルフォイさんが言う。口がモゴモゴ動かしている。何も聞こえない。魔法の詠唱が終わると突然空間に扉が現れた。


「入口です。参りましょう」とデルフォイさんは先頭をきって入口に向かって歩き始めた。扉が自然に開き私たちは中に入った。


「ここが本来の神殿でございます」とデルフォイさんが説明してくれた。多くの神像が並べられている。あの少年の像はたぶんエミル君だと思う」



冢宰ちょうさい様、邪教の神々の像がなぜここにあるのですか? 唯一神様の像がございません」とアズサちゃんが激怒している。アズサちゃんは敬虔な国教徒みたい。


「唯一神ですか。あれは初代皇帝の像ですよ。初代皇帝陛下も困ったこと、悩みごとがあるとこの神殿にこもって神々に祈りを捧げておられました」と懐かしそうにデルフォイさんは目を細めた。


「三代皇帝陛下までは、ここで神々に祈りを捧げる儀式があったのですが、四代皇帝陛下の御世になると、これらの神々を悪魔と呼び壊されそうになったのを私が必死で止めました。壊されなくて本当に良かったです」


「デルフォイ、それで熱核爆弾のスイッチは?」


「その少年の姿をした神像にはめ込まれた宝石をよく見てください」


「ペンダントにはめ込まれた宝石と同じだわ」


「宝石を神像から外すとスイッチが入ります。ご注意下さい」


 私はエミル君らしき神像を中心にして魔法陣を描いた。私以外の者が神殿に触れられないように簡易結界を張った。できるだけ早くこの神像を収める魔道具を作って、ペンダントと同様登録者のみ触れられるようにしたい。でないと私の神経が間違いなく不安で削られる。


「デルフォイ、信教の自由を認めませんか?」と私はデルフォイさんにお願いしてみた。


「私としてはどうでも良いことですので、認めてもよろしいのですが。国教徒の者は承服するでしょうか」


「アズサはどう思いますか?」


「エマ様の意図がわかりません。邪教を信じる者たちを認める理由がわかりません」


「初代皇帝陛下が祈った神々が邪神だとアズサはそう思うわけですか?」


 アズサちゃんは黙ってしまった。


「私は魔女だし、帝国の国教徒ではないですし。信教の自由が認められないととても困るわけです」


「エマ様は聖女様です、魔女なんかじゃありません。魔女は子どもを生け贄にして薬とか作る女たちを言うのです」とアズサちゃんが私を真剣な目で見つめて、どちらかというと睨みつけてかな。そんな顔で言った。


「アズサ、魔女は薬師でもあるので薬は作ります。私も回復薬を作っているわ。子どもを生け贄ってよく言われるのだけど、それってマンダラゴラの鳴く声が赤ちゃんの声に似ていることから生まれた誤解なの」


「マンダラゴラですか?」


「地上の薬草園では必ず栽培している薬草なんだけど、やや魔物化した薬草なので鳴く植物なの。私の薬草園に行く機会があれば見せてあげるわ。必ず耳栓を持参してね。とってもうるさいから」


「エマ様、ご自分のことを魔女とはおっしゃらないようにお願いします」


「デルフォイ、でも私は由緒正しき魔女の一族なんだけど」


「エマ様もご存知のように帝国では何度も魔女狩りをした歴史がございます。貴族も平民も魔女を忌避きひしております」


「私を皇帝の妃にしたいのなら、魔女狩りは誤りであったとすべての海底都市の住民の前で謝罪し、殺された魔女たちの名誉を復権させるてください。そうねこれを皇帝陛下への課題にいたしましょう」


「それすらできない皇帝の妻にはなるつもりはございませんから」と私は微笑んだ。


「さすがはディアブロ先輩の見込んだ主人だけのことはありますなぁ」と思い切りため息をついたデルフォイさんだった。

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