帝国使節団、バイエルンを訪問
私と私の副官のゆきちゃんは剣士ルーデンドルフさんと一緒に馬車でバイエルンに向かって私たちは帝国使節団としてバイエルンを訪問する。
賢者レヴィ様の予想が正しければ、私が女王になればバイエルンは王家直轄地を攻め盗る必要がなくなる。これまでにバイエルンが占領した土地はバイエルンにとって重荷でしかない不毛の土地ばかり。まあ港を奪うためには必要な拠点だけれども。多くの領民が逃げてしまって税収も上がらない土地ばかり。そんな土地はさっさと王家に返してしまう方が、バイエルンにとって、利益になるとレヴィ様は言っていた。
バイエルン領の国境を越えると、バイエルンの兵団が迎えにというか包囲というか私たちの馬車を取り巻いた。
「エマ様、私たちはここで死ぬのでしょうか? 警護の兵士にしては多すぎます」とルーデンドルフさんが青ざめていた。
「エマさんと私がそろっているので、過剰な警備とも言えませんけどね」とゆきちゃんが胸を張った。私はゆきちゃんだけでも十分だと思っている。
「姉上、我々は頑張りました」と馬車の横に、馬をつけてハンニバルが声をかけてきた。
「ハンニバル、母上が止めるのに王家直轄地に侵攻したのが、頑張ったことになるのですか!」
「姉上はお嫌でしょうが、姉上を女王にするためには必要な行動でした。こうでもしないと姉上は逃げ回りますから」
「それに戦闘らしい戦闘もなく、けが人も死人出ていません」
「ウイル国王が私に王権を返還すると発表したのですね」
「バイエルンは女王陛下に忠誠を誓う証に、すべての占領地域から兵士を引き上げました」
「手際の良いことで」
「ユータリア王家直轄地とバイエルン領の統治は私にお任せください」
「レクターがそう言っているの?」
「レクターは王家直轄地は公爵家になった元王族の統治が良いと言っていますが、クランツはバイエルンとどうしても一戦を交えたいようなので、無用な争いは避ける意味でも、私が統治すべきと考えます」
「レクターと相談して決めます。あなたの考えはちゃんと伝えますから」
「姉上、よろしくお願いします」とハンニバルは笑顔で最前列に馬を走らせた。
バイエルンの館に到着すると大広間に通された。で、「女王陛下万歳」とバイエルンの貴族が総出で迎えてくれた。私は帝国使節団長、エマ・デゥ・クローデルとしてのバイエルン訪問なんだけど。ルーデンドルフさんがどうしたものかと私の顔を見つめている。時の流れに身を任せるしかない。「何も考えなくて良いのでニッコリ笑っていてください」と小声でルーデンドルフさんに言った。
「エマ様、ようやく直系王族に王権が戻ってきました。どう処分いたしましょうか?偽物王族を」
「偽物王族と言っても私たちの親族ですので、元王家直轄地は公爵領とし、ウイル様と妹エリザベートとの婚約はそのままです」
「納得できません。これまで王家の番犬と蔑まれていた我々には。ハンニバル様がおっしゃるように、ここで一気に王族を潰すべきです」とバイエルン家の中でも王家絶対主義者の叔父上様が大きな声で主張している。貴族らしい掌返しだ。私はニッコリ叔父上様に微笑んだ。
「私は、本日はムーラ帝国使節団、団長エマ・デゥ・クローデルとして参っております。ユータリア国内のことはまた今度お願いします。叔父上様」
「エマ様、レクター様がお部屋でお待ちです」と執事長が私を呼びにきた。「ルーデンドルフ殿後はお任せします」と言ってルーデンドルフさん一人を残して私は大広間を後にした。ゆきちゃんは、もしかしたら敵になるかもしれないバイエルンの兵士を鍛えに行っている。
ルーデンドルフさんは途方に暮れていた。頑張って後がないのだからと心の中でつぶやいた。
「姉上と呼ぶ方が良いのでしょうか。それともエマ・デゥ・クローデル様と呼ぶ方が良いのでしょうか?」
「ここはあなたのお部屋なのだから、どちらでもけっこうよ」
「ふむ。私の部屋ならプライベート空間ですから、未だに勘当中の姉上ですが、今は姉上と呼ぶことにしましょう」
「とはいえ、姉上の勘当も、姉上が女王の座についてしまうと、姉上が勘当は無効と宣言してしまえば、公式的には無効になります。でも、母上と兄上、二人が許可しないとバイエルン家としての勘当は解けないそうですよ」とレクターは笑った。
「でも、姉上のお名前がすでに、バイエルンからクローデルに名前が変わられている今、どうでも良いことになってしまいましたね。バイエルン家の手札、交渉のカードが一枚なくなってしまいました」と言いつつレクターは微笑んだ。
「レクター、私を女王の座につけてどうしたいの?」
「姉上は生まれながらにして女王になる運命だと聞きましたので、実際そうなるのかどうかを試してみただけです。社会的実験です。結果は予言通り姉上は、女王陛下になられました」
「あなたの社会的実験の結果、私は女王に成り上がったわけですね。不愉快です」
「つまらないお節介をして申し訳ありません」とレクターは満足そうに笑った。




