帝国使節団のお披露目その2
ウエストランドでの晩餐会を終えた翌日、早々に馬車で使節団と私とゆきちゃんと、疲れきったヴィクターは聖女国に向かった。ただミーアさんの副署を協定書にもらうためだけに。
使節団にはしばらく聖女国に滞在してもらう予定にしている。聖女国に運んだ戦車等の武器の使い方及び戦術を教えてもらうために。
ユータリア王家にはミーアさんから、伝説の帝国が実在したと報告してもらった。王家の方はどうすれば良いのかわからないため、賢者レヴィ様と弟子のルイス君を聖女国に派遣してきた。
「伝説の帝国が存在したとはさすがの私も信じられません。で、帝国は地上をどのようにするつもりなのでしょうか?」
「皇帝陛下はユータリア全土は帝国の領土だとおっしゃっています」
「つまり、地上を帝国が再征服するということでよろしいのでしょうか?」
「建前上はそうなりますが、帝国としては貿易ができれば今まで通りで良いみたいです。条件付きですけど」
「その条件とは」
「私が皇帝陛下と結婚すること」
「それはおめでとうございます」
「まったくめでたくありません。私の結婚相手は私が選びます」
「皇帝陛下なら結婚相手として最高だと思いますが」
「私の場合、身分とかどうでも良いのです。私が尊敬できるかどうかが問題です」
「エマ様が皇后陛下にならないとユータリアはどうなるのでしょうか?」
「私にはわかりませんが、私が犠牲になるつもりもございません」
「帝国がすぐにユータリアに侵攻してくることはありません。兵士や武器を運ぶ大型海底船がまだありませんから」
「ただ帝国の臣民がすでにユータリアのあちこちに村を作っているので、そこは注意が必要でしょうけど」
「エマ様はユータリア王家はどうすれば良いとお考えでしょうか?」
「名ばかり王家なので、政権を皇帝に返還すれば中級貴族として生きていけます。バイエルンの侵攻も皇帝の命令で止められるかもしれません」
「今すぐに聖女国からバイエルンに出兵するのはダメでしょうか? クランツ王子が近衛兵団を鍛えてはいますが、戦力差が大き過ぎてまったく勝算がありません」
「バイエルンは私の故郷です。そこを戦場にすることには私には耐えられません。それにレクターやハンニバルの狙いが、私にはわからないのです」
「バイエルンの目的は港の確保だと思います。海底都市の存在がはっきりした今、内陸部のバイエルンは、間接的にしか帝国と接触できません。どうしても海に出たい。聖女国はウエストランドを押さえた。ホーエル・バッハは海に面している。王家直轄地には港がある」
「王家の港を奪うのがバイエルンの目的ということでしょうか」
「ハンニバル殿が国王の座を望んでいるのもあると思います。バイエルンは本来直系の王族ですから」
今のハンニバルは国王を望んではいないと思う。ハンニバルは、怪物レクターの下僕に成り下がっているもの。それと一番疑問なのはレクター。レクターはユータリアの征服とかそんなことには興味がないはず。レクターの意図が見えない。やはりバイエルンに行くしかないか。気が重いけど。エマ・デゥ・クローデルとして。
「レヴィ様、王家は今後どうすれば良いとお考えですか?」
「王家は、王権をエマ様に返還して、エマ様に王家直轄地を保護してもらうのが一番良いと私は思っております」
「グエ」と思わず奇声を発してしまった。
「ウイル国王はエマ様に王家を返還する段取りを取っておられます。もはや止められません」
「王家の条件は公爵家として王家を存続させることと、直轄地の保証でございます」
「間も無く国王陛下より発表があるかと思います」
「私にはなんの相談もなくですか」
「エマ様はバイエルン領を除くユータリアの実質的な統治者ですから、なんら問題はありません」
いや、当事者の私抜きで勝手に決めるなよ。私の思いは無視なのか。
「エマ様が女王になれば、バイエルンはユータリア王国に復帰します。復帰すればユータリア内の港を自由に使えますから戦争をするよりも復帰する利益の方が大きい。間違いなく戦争は回避できます。バイエルンの指導者もエマ様を女王にするために動いているようにも見えますし」
レクターならやりかねない。ただレクターがそう動く動機がわからない。
私の前世ではレクターは探偵業のかたわら生命についてかなり危ない研究をしていたと聞いたことがあるけど、それと関係しているのだろうか?




