ムーラ帝国施設団、聖女国と国交を開く
「ここにコイルを巻いた金属棒をさして、磁石を回転させると電気が発生する。仕組みは簡単だけど、これを大型化するのはかなり大変かも。ムーラ帝国で売っているバッテリーを買う方が安くつくかもしれない」と一言をつぶやいた。
クズ魔石をここに仕込んで磁石を回転させて電気を作る。それだったら初めからクズ魔石でモーターを動かす方が早いか。持続時間が減る。ヴィクターの周囲には試作品の山ができていた。
ユータリアに戻ってウエルテルに相談したい。アイデアがまったく浮かばない。
帝国が便利すぎる。コンセントにプラグをさせば、モーターは回る。灯りはスイッチを押せば灯りがつく。しかもリモコンで灯りの明るさが変えられる。水はコックを上げれば勝手に流れだし、コックを下げれば止まる。どういう仕組み。器具の仕組み自体は難しくはない。問題は各家、各部屋に水道管が通っている。あちこちに電線が引かれている。帝国の便利さは国家的事業がなされた結果だという結論になってしまった。
ここでは、僕のやりたいことがたいていできる。文明の差を痛感する。これはエマさんとウエルテルに相談しないといけない。
「エマさん、僕、聖女国に一度戻ってウエルテルと話がしたいです」
「私もクラーケンの実験的養殖場をウエストランドの海に設置したいので、地上に戻りたいのだけど、許可が下りない。私が地上に戻るなら、朕も行くってアールが駄々をこねて」
「皇帝陛下と一緒はまずいですよ。聖女国とまだ国交がない」
「ユータリア全土は元はムーラ帝国の領土だったのだから問題ないって、言い張って」
「それって地上では伝説だし」
「それで、聖女国に使節団を派遣して、聖女国と帝国が自由往来できるようにするってお話を冢宰さんが進めているわけで」
「いつ頃出発できそうなの」
「私とアールが結婚式をしたら、すぐに許可が下りるって」
「エマさんって王妃だよね?」
「王妃という役職についているだけで、結婚どころか婚約式もしていないのは知っているよね。で、皇帝陛下より王妃解任の辞令が出ました」
「僕には、理解できいないので、その話は終わり。で、いつ地上に戻れれるの?」
「ちょっと待ってね。デルフォイさんと念話するから」
「デルフォイ、エマです。地上に戻る件はどうなってますか?」
「エマ様が、帝国に戻ってくるという誓約を立ててくれたら、許可を出すってところまでは陛下も妥協しました。陛下は八歳なので後二年は結婚はできないで押し通しました」
「お疲れ様です。誓約はいつすればよろしいのですか?」
「祭壇の準備とかが必要ですので、一週間後になります。ムーラ帝国全都市に配信するので。中継スタッフとか機材の用意も必要なので、お急ぎのところ申し訳ありません」
「承知しました」
「後ですね、エマ様のドレスの仮縫いが明日からいたしますので、よろしくお願いします」デルフォイさんが念話を切った。
「エマさん、戻ってくる誓約式という割には大規模な儀式だと思うのだけど!」
「私も実は誓約式という婚約式ではないかと今思った」
「良いの?」
「儀式をやらないとここから出られないし、使節団の人たちがまた牢屋に入れられるのは、人情として避けたいの」
使節団はあの五人組でルーデンスドルフさんは今回失敗すると後がない。
ムーラ帝国全海底都市ネットでライブ中継中。番組名はアール皇帝陛下ご婚約。婚約者はエマ・デゥ・クローデルさんらしい。
私はクローデル大公という人の養女になっていた。聞いてないし。デルフォイさんはすべて書類上のことなので、何の問題もないそうだ。ただ、今後はエマ・デゥ・クローデルと帝国では名乗らないといけないと言われている。
聖女国には私が、帝国使節団の団長として派遣されるという形式をとると言われた。意味がわからない。聖女国の君主は私で、その私が自分の国である聖女国に帝国を代表して派遣されるって、理解不能だったりする。
私は理解するのを諦めた。私のポンコツ頭ではわからないから、時の流れに身を任せることにした。
無事婚約式も終わって、私とゆきちゃんはハヤテ丸に乗ってウエストランドに向かっている。ヴィクターをハヤテ丸に乗せようとしたらアールから男性の乗船は認められないと横ヤリが入って、ヴィクターは剣士さん一行の狭い船に乗せられた。
「エマ様には婚約者がおられるので、男性と二人きりになるのは厳禁です」とデルフォイさんから言われた。常にお付きの女官を置くようにと。面倒くさいな。




