クラーケン討伐
ゆきちゃんの服も予定通り仕上がって、私たちは二代目ハヤテ丸の甲板に立っている。二代目ハヤテ丸は完全自動操船で、私たちは何もしなくても良い。
ハヤテ丸の灯りに引き寄せられて各種魔物が寄ってくるのを私は淡々と魔力弾をぶつけて倒している。ゆきちゃんは新しい服が海水に濡れるのが嫌で、戦いを忌避している。女の子らしくて良いと思う。
ゆきちゃんが、フォトグラフの本を熱心に見ている。今週の運勢のコーナーもよく読んで、エマさんのラッキーアイテムはブルートパーズとか言っている。
ただ、私が「このスカートはゆきちゃんに似合うと思うよ」とか言っても「考えておきます」とチラ見もせずに答えていたのが残念だ。
帝都の船着場に着いた。ブリューヒルが停泊している。船体にブリューヒルってペイントしてあるので間違えようがない。ブリューヒルの隣に私たちの二代目ハヤテ丸を停泊させた。二代目ハヤテ丸も大きな船だと思ったけれど、ブリューヒルに比べると小舟にしか見えない。小舟なら免許はいらないかなあ。
「皇帝陛下、ただいま戻りました」
「エマ、よく戻った。もっとゆっくりしていても良かったのに」とかアール君は言っているけど、航海中ひっきりなしにデルフォイさんから後どのくらいで帝都に着くのかって念話がきていて、とてもうるさかった。
私たちの場合、私は空路でゆきちゃんは陸路で隣街まで半日足らずで着けるけど、海路だと三日かかった。自動操船の二代目ハヤテ丸は障害物があると必ず迂回するので、速度は出ているけど、進まない。
「皇后陛下、恩赦ありがとうございます」
「は?」と思ってみると剣士さんに戦士さんにレンジャーさんにマジックキャスターさんと僧侶さんが、私に対して跪いていた。
「牢屋から出られて良かったです」
「このまま忘れられるのではないかと本当に心配でした」と戦士さんが言う。
「ダンジョンの報告はできましたか?」
「ダンジョンについて報告したところ、今は大規模な遠征ができないので、しばらく攻略を延期することになりました」と僧侶さんが言う。だがしかし、デルフォイさんに、ゆきちゃんの両親がダンジョンで働いていること、ムーラ帝国の財宝はディアブロさんがどこかに隠していることを私から話したので、建前上延期だけど、実質的にはは中止になっている。
「あなたたちには今度はクラーケン退治をお願いします」
「エマ皇后陛下、クラーケンは特級の魔物ですので、皇帝陛下専用船といえども危険ではないかと愚考いたします」と僧侶さんが本当に行くのかって念押しをしている。
「ブリューヒルでの攻撃は必ずヒット・アンド・アウェイで、決してクラーケンに近づき過ぎないようにお願いします」
「クラーケンのトドメは皇帝陛下にお願いしますが、クラーケンを動けなくするのは、私たちの二代目ハヤテ丸がしますから」
「エマ皇后陛下なら大丈夫だとは思いますが、冢宰から伺ったクラーケンが現れる海域はその海域の主とも言うべき全長五十メートル級の超大型クラーケンだと思われます」とマジックキャスターさんが心配そうな顔で言う。
「超大型のクラーケンですか。血がたぎりますね」ゆきちゃんは強い魔物が好物なので、目がキラキラしている。次、里帰りすると結婚するはずだけど、お相手の男性がゆきちゃんが軍務につくのを反対したら、結婚して即離婚かもって考えてしまった。
「エマ、クラーケン退治はいつ行くのか」これまた目がキラキラしているアール君が尋ねてきた。
「皇帝陛下のご都合の良い日に出発します」
「わかった。冢宰と相談して、エマに知らせる」というと優雅だけれどほぼ駆け足で冢宰のところに行ってしまった。
デルフォイさんから念話が入った。明後日早朝出発ということになった。くれぐれも皇帝陛下の安全を最優先でお願いしますと何度も念を押された。デルフォイさんも心配性だね。
超大型クラーケンを退治するために、出航した。出航時なぜエマはブリューヒルに乗らないのか、エマが二代目ハヤテ丸に乗るというのなら朕も二代目ハヤテ丸に乗るとアール君がクズったので少々出航が遅れた。結局、冢宰さんが皇帝陛下がブリューヒルに乗らなければ、魔物狩りは中止ですって宣言したので、アール君は目に涙を溜めてブリューヒルに乗船した。
クラーケンが出没するという海域に到着した。海の色が真っ黒でまさに出ますって感じの海の色。水の精霊さんにお願いして超大型クラーケンのネグラはわかっている。そこに大型魚雷をぶち込んで、怒ったクラーケンがネグラから出てきたところを叩くことにした。




