先遣隊その2
私は快調に走ってトップでゴールした。タイム的には平凡だったので、最近弛んでいるのを痛感した。でも色々あって時間が取れないわけで。最近はエミル君の声も聞こえないし、聞こえないようにしているし。
兵士の皆さんが次々にゴールしている。面接試験に進む人に、私は面接試験の受験番号の書かれた板を手渡した。百一番からの人には「お疲れ様でした」と言って握手をした。悔し涙なのか感動なのか? 皆んな涙で顔がぐちょぐちょになっていた。私も思わず涙を零してしまった。なにはともあれ全員完走できて良かった。
後日、このマラソン大会は兵士の間で大好評だったということで、来年も実施してほしいとハーベスト准将を通じて兵士の皆さんから請願があった。私も楽しかったし。来年も開催することにした。
最終面接は、私とミーアさんとダイキチさんとなぜかヴィクターも試験官になっていた。ヴィクターは自分の助手を選ぶのが目的だったよう。
「うちって人材が豊富だったのだな」ってダイキチさんがポツリと言った。私たちは、何も見えていなかったことに気がついた。
皆さん、長所がある。確かに欠点もあるけど、皆さんが優秀だということが見えていなかった。
私は百人の人を二班に分けた。その上で全員合格にした。一班の指揮官はゆきちゃんにお願いした。もしムーラ帝国で反乱が起きた場合、先遣隊五十人の生命を守れるのはゆきちゃんしかいないと思ったから。私が二班を連れてくるまで、ゆきちゃんは、先遣隊五十人とアール皇帝の生命を守らないといけない。
兵力は徐々増強して最終的に五千人にしようと私は考えた。その間にゆきちゃんには誰が駐留軍の指揮官に良いかを観察してもらおうと思っている。問題なのは、海底都市と聖女国までの通信手段がないこと。ゆきちゃんは魔法が使えない。ヴィクターの魔力ではここまで念話が届かない。私の使い魔は海の中に入れない。
ムーラ帝国の人は無線機と言う魔道具を持っているのだが、仕組みがまったくわからない。魔力ではなく電気を利用しているので、私たちとは考え方が違う。一度ドワーフの技術者さんに見てもらいたいと思っている。
ヴィクターが言うには、私と念話をするだけならドラゴンの魔石を利用すれば良い。ただそれをすると海底都市の所在地が簡単にわかってしまうらしい。海底都市の人たちが隠れて住んでいるのなら、念話ではなく、有線で信号を送る方が良いのではと言う。
ドワーフの国ではトン、ツーの組み合わせで文章を送っていたそうだ。魔力をワイヤーの入った防水ロープに流してトン、ツーって打つ魔道具を開発すると言う。ゆきちゃんが言うにはロープの長さは数千キロは必要だと言う。
先遣隊第一班の出発はそのロープが用意できてからということになった。イレギュラーな問題が一つ発生したイン国留学予定のダイキチさんが帝国に行きたいと言い出した。
「ダイキチさん、ムーラ帝国で何が起こるか、私にもわかりません。ダイキチもヴィクターも私は守れないかもしれないです。それでも行くのですか?」
「知識のためなら、俺は行く。行かなければならないのだ」
ダイキチさんは完全に自分に酔ってる。
「ダイキチさんがそこまで言うなら、先遣隊第一班でヴィクターと一緒に行ってもらいますから。途中で泣き言はなしでお願いしますね」
「もちろんだとも」とダイキチさんは胸を張った。
ゆきちゃんが指揮官で兵士五十人とヴィクターとダイキチさん。ミーアさんに小船を用意してもらって、ドラゴンの魔石を四つ念のために積んだ。万一私が具合が悪くなっても船のシールドは維持され、海底都市まで行けるようにした。
兵士の皆さんはさすが精鋭部隊なので、船が海中に沈んでも平静を保っている。平静でないのはヴィクターとダイキチさんだった。わーわー言っている。しばらくして海の底で光が届かないので真っ暗になったら、二人とも静かになった。
アール皇帝は不安でいっぱいの顔になっている。従う兵士はたった五十人だからしょうがないか? それとも「父上」が一緒じゃないからか。
海底都市に到着すると、アール皇帝は冢宰と前皇帝崩御の発表の段取りをしている。
私たちはゴーレム近衛兵とどう連携して戦うべきか何度もシーミュレーションを繰り返した。ゴーレム近衛兵士は後ろに回り込まれると弱い。後頭部を叩かれると簡単に崩れてしまう。
私とゆきちゃんとベテラン兵士五十人でゴーレム近衛兵の後ろを守るのが一番勝率が高いという結論になった。




