ルーラ帝国その6
「お父上は地上に行かれたいのですか?」
「父上は病なのだ。医者が言うには地上に出て天然の太陽の光を浴びれば治ると言う」
「しかし、父上の寝台を乗せる船がないのだ。設計はさせているのだが」
「エマさん、アールさんのお父さんも一緒に連れて行けば良いのでは、私、帰り道わかりますし、お父さんが元気になればあの狭い船でも帰れますから」
「ゆきちゃん、ちゃんと診察してからそういうお話をした方が良いと思うよ」
「そうでした。アールさん、お父さんを今から診察しても良いですか?」
「その方は医者なのか?」
「私は看護師でエマさんが医者です」
「女王が医者になっても良いのか?」
「地上ではそれもありです」
「そうなのか? 地上はこことは大きく違うのだな」
「皇帝陛下はそれは違います。女王エマ殿が変なだけでございます」と剣士が言う。
「女王エマ、そうなのか?」
「私が常識に欠けているのは認めますが、変ではありません。皇帝陛下、お願いがございます。この視察団の五人はかなり臭いますので、お風呂に入れてください」
「近衛に命じる五人の手枷、足枷を外して入浴させるように」
また近衛全員が五人を連れて大広間を出て行ってしまった。私はアール皇帝の玉座に近寄ってアール皇帝が玉座から下りるのを手伝った。
「私ももう少し大きくなったら手伝いなしで玉座から下りられるようになる。それまで女王エマ、待ってほしい」
「承知しました。お父上のところに連れて行ってくださいませ」
「任せるが良い」とアール皇帝は胸を張った。ちょっと可愛いかもしれない。
アール皇帝の後について私たちは宮殿内を歩いている。しかし普通皇帝を守るはずの近衛兵が一人もついて来ない。
「皇帝陛下、護衛の方はどうされたのですか?」
「宮廷内には見えないところに兵士が隠れているので心配ない」
私はゆきちゃんの顔を見たら首を横に振っていた。だよね。誰もいないよね。
「ここからは後宮なので男性は朕と父上しか入れない」
皇帝陛下自ら呼び鈴を鳴らした。後宮の扉が開いた。なんというか。高齢の侍女の方しかいなかった。
「父上の見舞いに来た。案内せよ」
「陛下、お父上様のご容態がよくありません。後日改めてお越しください」
「わかった。女王エマとその従者ゆき、朕が案内するのでついては来るように」
高齢の侍女さんは止めようとはまったくしなかった。トテトテと皇帝陛下が先頭を切って歩いている。
「この部屋だ。あれ、鍵がかかっている」
「皇帝陛下、私にお任せください」とアンロックの魔法で鍵を解除して、内側からかんぬき錠がさしてあったが、ゆきちゃんが軽く開けてしまった。
「父上、お加減はいかがですか?」
「アールかよくここに来れたね」
「女王エマのおかげです。女王エマは医者です。私がお願いして父上をみてもらうことにしました」
「アールが頼んでくれたのか? それではみてもらおうか?」
お付きの人に邪魔をされないように、金縛りの魔法を全員にかけておいた。全員と言っても四人しかいなかったけど」
私は触診をしてみた。これは太陽に当たっても治らないと思う。ゆきちゃんに代わった。ゆきちゃんの表情が変わった。
「エマさん、シコリがあります。手術が必要だと思います」と私の耳元で囁いた。
「これは早く地上に行って太陽の光を浴びて頂かないといけません」
「すぐにです」と私が言った時にはアール皇帝の父上が寝ている寝台はフローティングボードに乗って移動を始めていた。
「女王エマ、朕も行きます」
「国政は?」
「冢宰がいるので問題ありません。父上には朕が側にいないといけません」
ディアブロさんと冢宰さんがどこからともなく現れた。
「ディアブロさん、冢宰閣下とお話しはできまして?」
「百年後に地獄に戻って書記官をすることになりました」
「ところでエマ様なぜ寝台を運んでおられるのでしょうか?」
「急患なのでクルト診療所に戻らないといけなくなりました」
「それはいけませんね。デルフォイ君、エマ様ご一行をクルト診療所まで転送したまえ」
「ディアブロ先輩、僕はディアブロ先輩の魔力の万分の一しかないので、海の中で魔力切れするかもしれません」
「デルフォイ君、私の言う事が」
「イエス、マイロード」
「アール皇帝陛下もご一緒ですか?」
「冢宰、後のことは頼みます」
「海の中に転送するかもなので、シールドはお願いしますね。エマ様に何かあったら僕、先輩に生涯付きまとわれますから。お願いします」
「大丈夫です。任せてください」
冢宰さんが私たちを転送した。海の中ではなく、陸地に。ただ魔族支配地だったけれど。
「ゆきちゃんは悪いのだけど、走ってクルト診療所までお願い」
「私とアール皇帝陛下と皇帝陛下の父上は空を飛びます」
「了解です」と言うなりフェンリルのフェンちゃんと一緒にゆきちゃんは駆け出して行った。




