魔道具職人の意地 VS商人の意地
ヴィクターはウエルテルに壊れることを前提に設計するなどあり得ないとウエルテルに詰め寄った。
「どうして最初から1000回使用で壊れる魔道具を作るのか僕にはわからない」
「壊れたら次の商品が売れます。壊れた着火具を再利用して売ればコストが下げられて、着火具をより安く多くの方に提供出来ます、使用限度は1000回と明記して売れば詐欺にもなりません」
「僕は魔道具は長年使ってほしいと思っている」
「そう言う魔道具もあって良いし、消耗品として使い捨ての魔道具もあって良いと僕は思います」
二人とも言ってることはどちらかも正しいと思う。私はここで私の思うことを言わないと、この議論は終わらない。
「はい、二人ともご静粛に、私の考えは壊れにくい魔道具で、取り扱いが便利で、値段が安くて、量産できる事です」
「エマさん、魔道具って手作りで一品ものなのは知っているよね、魔道具のランタンさえ熟練の職人が3、4日掛けて作ってる」
「着火具は、部品を組み立てるだけで誰でも簡単に作れるようにしたい」
「それだと、売り出した途端に類似品が出回って、儲からないです」
「ウエルテルさん、私が言ったわけだけど、そんなに簡単に着火具は真似できるの」
「エマさん、回路図が描かれた銅板さえあれば、誰でも真似できます。それと僕のことはウエルテルと呼んでください」
ウキヨエのことをみんなに話したら、ウエルテルが「そのアイデアいただきました。これからは、魔道具が量産される時代が来ます」
「エマさん、契約書にサインしてください。ウチが着火専用魔道具の専属契約及び専属販売をしても良いという契約書です」
「どう言うこと、ウエルテル」「言った通り、ウチの家は魔道具ギルドに加入しているので、製造、販売する分には何の問題もなしです」
「ウエルテル、契約書にサインするわ」
「エマさん、契約書の内容くらい確認したらどうなんだい」
「ヴィクター、私はまだ6歳なの15歳まで着火具を眠らせておく気はないの、製造して売ってくれるなら、問題ないじゃないの」
「エマさんがそう言うなら俺はそれで良いよ」
「契約成立です。今後エマさんには利益の10パーセント、カオリ先輩には利益の5パーセントとヴィクターも利益の5パーセント、僕にも利益の5パーセントが支払われます」
「魔道具の回路図は20万ドラクマでウチが買取ます」
カオリさんが一番慌てて、「私はそんな利益の5パーセントなんて頂けません」と言い出した。「カオリ先輩、問題ありません。ミカサ先輩の口座に振り込まれますから」「エマさんはローレンス弁護士の口座に振り込まれます」「ヴィクター、後でお家の口座を教えてそこに、振り込むから」
「今日はとっても良い日です。商談成立、我が家は大儲けです。着火具の開発者名はエマさんで良いよね」
「エマさんのアイデアだし、当然エマさんが開発者になる」
「特許を申請するから、類似品が出回ったらエマさんに特許料が支払われるかもしれません」
「特許料ですか」
「期待しないでください、たいていの魔道具屋は払わないので」
「何だよそれは」
「着火魔道具開発者、エマ・フォン・バイエルンって国に登録されるのって名誉でしょう」
「確かに名誉だわ」
「今日は僕はご挨拶だけなので、これで失礼します。着火魔道具を売り出す際の催しには来てくださいね」とウエルテルは走って部室を出て行った。
彼はまだ入部届けを書いていないのだけど良いのだろうか。
「アイツは一体何なの?」
「ウエルテルさんって魔道具師ではなく、商人ですね」
「そうね、製造、販売を一手に引き受ける商人、貴族の発想はまったくない人だと思う」
ウエルテルが、私を本気で殺そうとしたとはとっても思えない。何だよあの軽さは、悩んで損した。