冒険者たち
最初は定番のスライムの攻撃。スライムがやられるたびに、せっかく育てたスライムがってため息をつかれるので、冒険者の皆さんを応援できない。
「結構、魔物がいるじゃないですか」今は数の暴力で冒険者たちを押し戻している。冒険者たちはマジックキャスターが張ったシールドの中から一歩も動けない。
ウサギ型の魔物とネズミ型の魔物と黒くてすべすべした虫の大群に囲まれてしまっている。
マジックキャスターのシールド魔法が切れれば、魔物の大群に飲み込まれるのは必至の状態なのだが。
「用意ができたみたいですね」とゆきちゃんが言う。
剣士が剣を一振りすると、魔物の大群が消滅してしまった。
「あの剣は聖剣エクスカリバーでしょうか?」
「そうなんだ」
確かに剣からまばゆい光が溢れたのはわかった。でも剣士が魔力切れを起こしているみたい。冒険者たちは撤退を始めた。
「我々の勝利だ」とダンジョンマスターが宣言をし、広場にいる皆さんが勝どきを上げていた。
「勇者エマとその従者ゆき、超ショットカットルートを設置したので、早くダンジョンから出てください」とダンジョンマスターの本音の言葉が聞こえた。
転送陣が目の前にあった。
「お父さん、お母さんまた里帰りするから元気でいてね」
「お前もな」
「転送陣に乗ってください」とダンジョンマスターが急かす。
「ゆきちゃん、行こうか」と私が声をかけた。
「はい」とゆきちゃんが返事をして二人そろって転送陣に乗ったら、即座に外に飛ばされた。
そこはダンジョンの入り口近くだった。
ダンジョンの入り口からさっきの冒険者たちが疲れた足取りで出てきた。剣士に戦士にマジックキャスターに僧侶にレンジャーかバランスの取れたパーティだと思う。ただ、ユータリアでは見たことのない紋章をみんな付けているのが気になる。
隠れるつもりもないので、見慣れない冒険者たちに声をかけた。
「私は銀等級の冒険者でバニラと言います。こっちは相棒のゆきです。皆さんはダンジョンに入られたのですか?」
「あんたたちもこのダンジョンに挑むのかね」と僧侶が尋ねた。
「それは皆さんからもらう情報によって決めたいと思っています。ただとは言いません。銀貨五枚は支払うつもりです」
「いらないよ、そんな端金なんか」機嫌の悪そうなレンジャーが答えた。
「ここは大規模パーティでないと攻略できないよ。魔物の数が多過ぎるから」と剣士が言う。ゆきちゃんが言ったように剣士が腰に吊るしている剣から聖なる力を感じる。
「どのくらいの数でしょうか?」
「数千から数万かな。要するに数え切れなかった」と僧侶が言う。
「虫の数は数万匹だと思います」と戦士が丁寧な口調で話してくれた。
「私は虫は苦手なので、ダンジョンに挑むのやめておきます」
「それが良いぜ、お前たち二人だけだと即あの世行きだぜ」と多少機嫌が直ったのかレンジャーが軽口をたたいた。
「ダンジョン攻略失敗の報告書はやはり拙僧が書くのでしょうか?」
「すまないが、そうして欲しい」と剣士が言う。
マジックキャスターがじっと私たちを見つめている。
「あなたたちは、本当に銀等級の冒険者なのかな? バニラ殿からは魔力、ゆき殿からは人ならざるものの気配がします」とマジックキャスターが言った途端、冒険者の皆さんは戦闘体制に入ってしまった。
「これは拳で語らう方が早いですね」脳筋クランツの影響だ。ゆきちゃんは駆け出して戦士と拳で楽しそうに語らっている。まあ本気は出してないから良いか。
レンジャーさん、人間にしては動きが早い。私はレンジャーの足を土魔法で止めた。
「バニラはマジックキャスターだ。気をつけろ」と叫んでいる。とっても良い連携だ。
マジックキャスターさんは守備の要のようで、シールドを張っている。僧侶はヒーラだ。戦士を癒やしている。
剣士はエクスカリバーを使うつもりのようだ。一日に二回も聖剣を使ったら寿命が縮むのに。仕方ないか。私はマジックキャスターの張ったシールドを抜けて、剣士さんの胸に手を置いて「チェックメイト」を宣言した。
「ゆき殿からはまったく悪意は感じない。素晴らしいモンクだ」
「バニラ殿、あなたはどうして銀等級の冒険者などをやっているのですか?」
「金等級に成れってうるさくギルド長から言われています。でも金等級以上になると、しがらみが色々ありまして、私、そういうのが嫌いなんですよ」
「そういう意味ではないのですが」とマジックキャスターが言った。




