ゆきちゃんのお父さんとお母さん
「藪から棒に何を言い出すのか? お前は」
「嫁にもらいたいなら、先ずは両親に話を通すもんだ。そうだろう母さん」
「そうですよね。お父さん」
「そういう常識もない男に大事な娘はやれん」
「そうですよ。ゆき。こういうお話はちゃんとしたお仲人さんを間に立ててですね。家同士が決めるのが普通というものです」
「あのね、相手は王子だから、そういう常識がなくて」
「王子様なら、なおさら筋を通してもらわないと困る」
「お酒を飲んで襲ってくる王子だから、そういうのは無理だと思う」
「ゆき、襲われたのか?」
「うん、でも、ちゃんと守ったから。心配しないで」
「母さん、そいつをクズと呼んでも良いと思うが、母さんはどう思う?」
「間違いなくクズです。お酒を飲んで女の子を襲うなんて信じられません。お父さん」
クランツはお酒の飲み比べに負けたので、ゆきちゃんに勝負を挑んだわけで、変な下心があって挑戦したわけではない。これはゆきちゃんの説明が悪いと思う。
「ゆき、たとえ王子様であってもそういう行為をする男との交際を私たちは認めるわけにはいかない」
「ちなみにその王子様は畑は持っているのか?」
「持ってはいないです」
「母さん、問題外だと思うのだが」
「お父さん、問題外です」
クランツは畑は持ってはいないけど領地には畑があるのだけれど。
「ゆきはその王子のことが好きなのか?」
「別に、なんとも思ってないです」
「母さん、この話はなかったことにしたいのだけど、どうだろうか?」
「お父さん、そうした方が良いと私も思います」
「ゆき、この結婚話だが、父さんも母さんも反対だ」
「エマさん、そういうことになりました。クランツ王子にはその旨伝えてください」
まさかの丸投げは困るのだけど。
「ゆき、この方はどなたなのかな?」
「お父さん、私の上司でエマさんです」
「ゆきさんのお父様、お母様、初めましてゆきさんの上司でエマと申します。ゆきさんにはいつもお世話になっております。ゆきさんは本当に優秀な娘さんです」
「ゆきがお世話になっております。私は、今はしがないスナックのマスターをしておりますが、その前はそこそこ広い畑で自作農をしておりました」
「スナックのマスターも立派なお仕事だと思います」
「私も妻も色々ありまして、村長の命令に従うほかがなくて、こんなところで暮らしているわけでございます。ゆきとは何の関係もございません。そこのところはご承知くださると有り難いです」
「もちろんですとも、ゆきさんと今のご両親の生活は無関係なのはよくわかっております。ご心配なさらないでください」
「そう言ってもらえると嬉しいです」とご両親は目に涙を溜めていた。
「ゆき、しばらくはここにいられるのか?」
「二、三日なら大丈夫。それにまた帰ってくるし」
「母さん、ゆきがこの店の看板娘になってくれるそうだ。ゆきの婿は私たちで決めような」
お父さん、二、三日しかいない娘を看板娘にするのはどうかと思うけど。
「ゆき、あそことあそこ、注文を取ってきて。それからそこの人にエールを運んで」
「はい、お父さん」
私もいつも間にかお皿を洗っている。ゆきちゃんのご両親は人使いが上手い。
「エマさん、手が止まってるよ」
「すみません。マスター」
私は丸二日間、眠ることなくお皿を洗い続けた。マスターが作ってくれる賄い料理は美味しかた。私はアンデットに近いのかもしれない。
エールとかを運ぶと可愛いねって言ってもらえた。お世辞でも嬉しかったりする。言ってくれる人が吸血鬼の眷属さんでもね。
「お父さん、お母さんさんまた来るね」
「いつでも帰っておいで、婿はお父さんたちが見つけておいてやるから安心しなさい」
「ありがとう」とゆきちゃんが泣いているけど、ゆみちゃん、次里帰りしたらたぶんそのまま結婚式だと思うだけど良いのだろうか?
「エマさん、ゆきのことをお願いします」
「はい、もちろんです。ゆきさんのお母様」私は思わずママって言いそうになった。
「ただ今、ダンジョンに冒険者たちが入ったので、勇者エマ、その従者ゆき、しばらく待機してください」とダンジョンマスターからお願いがあった。
広場には、冒険者たちの映像が映し出されている。装備から見るとどこかの貴族か貴族のスポンサーがついている冒険者に見える。




