久しぶりのダンジョン
私は医者にはなったものの、腕はクルトさんに負けている。縫合技術はコゼットさんにもメリンダさんにも及ばない。なんとはなくだけど診察もゆきちゃんの方が上手な気がする。
「エマさん、元気がないですね。どうしました」
「私って医者にはなったけど、まあなんというか、頼りない医者にしかなれない気がするわけで」
「エマさんの専門は動物ではなくて植物ですから、当然と言えば当然です。難しい病気は専門のお医者さんに回すのが良いと思いますよ」
ゆきちゃんはハッキリ言ってくれるので、気持ちが良い。なんだかんだ言っても私の関心は植物だよね。私は庭師志望なわけで、その割には花のことも野菜の知識も不足している。お庭をコーディネートすることもできない。基本に立ち返らないといけない。自分を見失なうところだった。
「ゆきちゃん、ありがとうね」
「エマさん、私、そろそろダンジョンに行って、嫁に来いって言われているのを両親に相談しようかと思っているのですが、エマさんのご都合はどうでしょうか?」
「今週と来週は予定はないから」
「明日は私、クルト先生の代診なので、明後日ダンジョンに行くことにしましょうか?」
「了解です」ええっとですね。私は医師免許を持っている、ちゃんとしたお医者さんなのに、どうしてクルトさんは私に代診を頼まないのだろか? なぜだろう? 直接尋ねれば良いだけなのに、尋ねられない。はあ。またため息をついてしまった。
私とゆきちゃんはダンジョンに潜っている。ただ今、十三階層、未だに一匹の魔物も出て来ない。あの吸血鬼のダンジョンマスターに嫌がらせをされているのだろうか?
「私の父と母はどこでお仕事をしているのでしょうね」
「ダンジョンマスターの眷属だから最下層じゃないかしら?」
私たちは順調に階層を降りている。罠も何もない。ただ暗いだけ。
「エマさん、まったく面白くありません。とっても退屈です。夜道をただ歩いているだけです。村長さん、手抜きが過ぎますよ」
「勇者エマとその従者ゆき、我は無駄な力を使わない。従者ゆきの両親は九十九階層でアンデット向けの酒場を経営している。さっさと行くが良い。ショートカットルートを用意した」と暗闇からダンジョンマスターの声が聞こえた。
真正面にショートカットルートができていた。ダンジョンマスターの気持ちが、私たちに早く帰ってもらいたいと言う気持ちが伝わってきた。
ショートカットルートの割にはなかなか着かない。時折ただ今、五十階層とかプレートがぶら下がっているのは親切心なのだろうか?
やっと九十九階層にやってきた。
「おや、ゆきちゃん、あんたもここに配属されたのかい。良かったね。魔物の世話は大変だよね」
「魔物を育てているのですか?」
「お嬢ちゃん、知らないのここのダンジョンの魔物は私らが手間暇かけて大きくした子たちなんだよ」
「冒険者が、なんとも思わずにあの子たちを狩るのって、人でなしって思っちゃうわよ」
それで魔物たちを私たちから隠したのか。せっかく育てた魔物を狩らせないために。
「おばさん、うちの両親はどこにいますか?」
「ゆきちゃんのお父さんとお母さんは、スナック夜が明けるまっでてお店にいるよ」
ダンジョンは夜が明けないから二十四時間営業のスナックかもしれない。
「おばさん、ありがとう」
「私も仕事が終わったらお店に行くってママに言っておいて」
「うん、伝えておくよ」
スナック夜が明けるまでってこの店だ。結構流行っているようで満席だ。
「お父さん、お母さん、ゆきです。ただ今」とゆきちゃんが元気良く店の中に入った。
ゆきちゃんのご両親は固まっていた。
「母さん」
「はい、あなた」
「ゆきはちゃんと墓に入れたよな」
「はい、あなた、葬儀屋にぼったくられましたが立派なお葬式もしました」
「で、どうしてゆきがここにいるのだろうか? 母さん」
「どうしてでしょうね。お父さん」
「お父さん、お母さん私は死んではいません!」
「母さん、葬儀屋のところに行って支払った料金を返してもらおう」
ゆきちゃんのお父さん。なぜそういう考えに至るのでしょうか?
「そうですね。ゆきが生きているのならお葬式をする必要がなかったのですから」
「お父さん、お母さん、私の葬式代のことは後で良いから私の話を聞いて」
「私ね、嫁に来いって言われてるのよ」




