ゆきちゃんがお医者さん?その2
「ゆき先生、クルト先生が帰ってきました」とダン君の声が聞こえた。
「クルト先生とお話しますか?」
「これで帰ります。ありがとうございました」と銀貨のオヤジさんはそそくさと診察室を出て行った。
「クルト先生が往診に出かけると、診察にくるんですよ。あの人」
「クルト先生は、すぐに手術って言うので。代診の時を狙って、お薬をもらいにみたいですね。他でもらった薬は効かなかったみたい」
クルトさんが診察室に入ってきた。
「エマさん、お久しぶりですね」
「クルト先生、こんにちは。私、ここの診療所が聖エマ・クルト診療所という名前だったことを今、知りましたわ」
「おかしいですね。言ったはずなんですけど」白々しいぞ、クルトさん。
「うちの子たちの働きはいかがですか?」
「ゆき君もコゼット君もメリンダ君もヤン君もダン君もよく働いてくれて助かります」
「そう言ってもらえると私の嬉しいです。ただ、すべて事後報告というのは納得できないのですけどね」
「エマさんは、世界を巡っておられましたから。しょうがないですな」って笑って誤魔化すなよ。
「ところで、今の患者さんも心臓の疾患のようですね」
「ええ、あの人も心臓の弁です。人工弁に取り替えないと良く持って後五年の寿命だと思います」
「そのことは、患者さんに伝えましたよね」
「もちろんです。今は伝えたことを後悔していますが」
「それはどうして?」
「自分が死んだ後も家族が生活に困らないようにとこれまで以上に仕事をしだしたのでね」
「エマさん、手術を手伝ってもらえますか? 男の子の手術にの時はなんというか大変有り難かったです。後遺症も最小限度で済みましたから。エマさんと一緒に手術ができるのであれば、私も自信を持って手術ができます」
前回の手術で私したことは男の子の脳に血液が循環させただけだけ。たぶん縫合はコゼットさんやメリンダさんの方が上手だと思う。
「はい、その時は喜んでお手伝いします」
「ゆき君、あの人の状態はどうでしたか?」
「良くないです。早く手術をすべきだと思います」なぜにゆきちゃんは、私をじっと見るのかなあ。クルトさんを見つめるべきではないだろうか? クルトさんもなぜに私を見つめるのか解せぬ。
「ええっとですね。私が説得してみましょうか?」
「よろしくお願いします」って二人一斉に唱和しないでよ。私はとりあえず言ってみただけなんだから。期待しないでほしい。
銀貨のオヤジさんの家の前にきている。もうどうにでもなれっと家の呼び鈴私鳴らした。すると綺麗だけど、どこか寂しげな女性が出てきた。
「クルト診療所からきました。エマと申します」
「聖女様が来られるなんて」泣かれると話ができない。
「お話がありまして」
「申し訳ございません。どうぞ中にお入りください」
「ご主人の病気のことで」
「はい、良く持って五年だと申しておりました」
「いえ、手術をすればもっともっと生きられます!」
「治らないと、主人はそう言っておりましたが」
「治ります。多少後遺症は残るかもしれませんが。ご主人の病気は心臓の病気で、心臓の一部を人工のものに取り替えるだけで治る病気です」
「治る病気なんですか。良かった」銀貨のオヤジさんの妻は心底安心した表情になっていた。
「それでですね。ご主人の手術には私も立ち会います。手術はできるだけ早くしたいのですが、ご主人が逃げてしまうので」
「主人は、ああ見えて気が小さい人ですから。聖女様が立ち会っていただけるのでしたら、安心です」
私は本当にそこにいるだけです。実際に手術するのはクルトさんで、縫合するのはゆきちゃんだったりするわけ。私は主治医ではないので手は出さない。出す必要がない。言わないけどね。
「主人が帰ってきました」と銀貨のオヤジさんの妻は出迎えに行った。その後すぐに主人が逃げましたとの声が聞こえたので、私は慌てて外に飛び出した。
「私から逃げられると思うな」と思わず言ってしまった。これって悪党の吐くセリフだよね。うふふふふう、光のロープで捕縛成功。
「暴れても私からは逃げられない。観念するが良い」と、こういうセリフをスラスラ言えてしまうのは性格的なものかしら。
銀貨のオヤジさんは、「やはり、あなた様は聖女様でしたか」と叫んでいる。私はどこかでこのオヤジさんと会っていたらしい。まったく覚えていないけど。
「ここでは人目もありますから、お家でお話しましょうね」と言いつつ銀貨のオヤジさんを光のロープで引っ張りながら家の中に文字通り引きずり込んだ。
フウー疲れた。




