ゆきちゃんがお医者さん?
「聖女様、お久しぶりです」とヤン君とダン君がクルト診療所の受付をしていた。
「ええっとゆきちゃんはどこかしら?」
「ゆき先生は診察室です」
「はい?」
「ゆき先生は第二診察室です」
「ヤン君、ありがとう」ゆき先生ってどういうことなの? ゆきちゃんがいる第二診察室に入るとゆきちゃんが患者さんを怒っていた。
「何回、言ったらわかるんですか? お薬だけでは治りません。体重を減らしてください。これ以上太ったら強制入院させますよ!」
「私も痩せそうと思っているのですが、ここ最近食事が美味しくてつい食べ過ぎてしまいまして、運動はしてます」
「運動も大事ですが、今の体重だと膝に負担がかかるので、ほどほどにして食事は野菜中心でお願いします。お薬は今回は出しませんから」
「お薬がないと不安です」
「今の体重だとお薬を飲んでもたぶん効きませんから、無駄です。前回の診察した時の体重に戻してくださいね。お願いします」
「はい、頑張ります。ゆき先生」と言って診察室を患者さんが出て行った。
「ゆきちゃん、何をやっているの?」
「クルト先生が往診中なので、代診を頼まれまして」
「今日、初めてって感じじゃなかったけれど」
「アカデメイアに戻ってくると、なぜか私が担当した患者さんが通院してきますね。患者さんの口コミネットワークは凄いですよ」
「コゼットさんもメリンダさんも医師補助者の資格で時々診察しているそうです」
「縫合は、コゼットさんとメリンダさんの方がクルト先生より上手なので、クルト先生は、僕の代わりに、コゼットさんやメリンダさんに、縫ってとかお願いしているそうですよ」
ユータリアでは実務は医者の指示でその従者がする。医者は触診程度しかしない。その触診さえも従者にさせる医者もいるのがユータリアだったりするので、改めて考えると驚くことではなかった。
「ゆきちゃん、看護師の資格って必要なの?」
「必要です。診察はクルト診療所のみ限定ですから」
「ゆきちゃんもコゼットさんもメリンダさんも私の従者でクルトさんの従者ではないのだけれど」
「エマさんってもしかしたら、ここの診療所の正式な名称を知らないのですか? 聖エマ・クルト診療所ですよ」
「そうなの、聖エマって頭に付けたんだ。クルトの奴」私に一言も言わずに。アカデメイアに戻ってから私の神経はササクレだっている。
「エマさんの薬草店はクルト先生の従者で婚約者のアムロさんが薬剤師さんをやっていますよ。アムロさんって、薬草の部位によって効能が変わるのを発見したりしてとっても研究熱心なんですが、超人見知りで表に出られないんですって」
そう言えば、私のお店なのに調合室には私も入れてもらえなかった。まあ良いけど。
「ゆきちゃん、銀貨のオヤジがきたよ。よろしくね」ダン君が診察室に言いにきた。
「銀貨のオヤジって何?」
「順番を銀貨一枚で買う患者さんです。十一番目だと一人一人に銀貨一枚を渡して順番を買う人がいるんですよ」
銀貨のオヤジさんが診察室に入ってきた。
「ゆき先生、胃が痛い」恰幅の良い見るからに商売人って感じの人だった。
「ゆき先生、このお嬢ちゃんは誰?」
「私は看護師見習いですので、ご心配なく」
「そう、どこかで会っていないかあ?」
「初対面だと思います」
「どこかで見た記憶があるんだけど、俺は一度会った人は忘れないはずなんだけど」
「胃ではないですね、心臓が痛んでいるのを胃だと勘違いしていると思います」
「心臓の拍動に異常があります」
「俺の親父も突然心臓が止まって死んだんだよ。やはり親子だね。はあ、まだ俺の息子は小さいので、まだ死ぬわけにはいかないんだ。ゆき先生なんとかならないか?」
「お仕事の量を減らせますか?」
「今は無理だ。大きな取引の真っ最中だから」
「クルト先生がいつも言っているように、手術した方が良いのでは。薬では根本的には治らないですから。お子さんもまだ小さいのですから早く治した方が良いのでは」
「この仕事が片付いたら考えてみます」
「お薬は出しますけど、お薬では治らないので。深酒はしないこと。規則正しい生活を送ることを心がけてくださいね」
「ゆき先生、了解です」
「具合が悪くなったらすぐにきてくださいね。我慢はなしですよ」
「わかっています。いつものお薬をお願いしますよ。ゆき先生ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「なんでしょう?」
「ここの薬はどうして良く効くのでしょうか? 同じ薬を知り合いの薬屋に頼んだのに明らかに効きが違うのが不思議で」
「作り方は同じ、薬の原料も同じですが、調合する薬剤師の腕が違うのでは。お隣の薬剤師さんは腕が良いですからね」
「同じ質問を薬屋にしたら、聖女の薬草店は神様のご加護付きだと言われたのですがね」
「それは嘘ですね。神様のご加護付きなら私たちはこんなに苦労しませんから」




