お医者さんになったその4
「それでは、特別医師免許証に署名をいたしますね。君、ここにハンコを捺してください。私が捺すといつも少しズレるから」
何このスムーズは展開はどうなっているの。
「あのう、私、国家試験を受験しておりませんが、よろしいのでしょうか?」
「医学部の学部長の保証がついた医師はそれだけで優秀な医師ですから。別に私の署名とかがなくても問題ないのですけどね。とは言え特別免許を見たことある人って医聖資料館に行ったことのある人しかいませんから。まあ私の署名と捺印があれば偽医者呼ばわりはされないかい?」
「なにしろ五百年前に発行された特別医師免許証は、医聖と呼ばれた医学部初代学部長だけの医師免許でした。自分で制度を作って自分に適用したのですよ。ご苦労なことです。当時はちゃんとした医師免許制度がなくて、誰でも医者を名乗れました。医学部の構内に胸像があると思います。見たことがあるでしょう」
すみません。興味がないのでちゃんと見てません。胸像のところを左に曲がると食堂があるので、目印としては見てました。医学部に戻ったら一度お礼を胸像に言っておこう。特別医師免許制度を設けてくれてありがとうと。
「ハンス学部長が仰るには、総長は王妃が医師になることに反対だったと聞きましたけれど」
「反対も何も王妃は王妃なんです。王妃が他人を触診するなんて許されません」
「でも、エマさんは本物の王妃ではないのでしょう?」
「ええ、ウイル国王陛下と結婚した覚えはないので」
「この先も、永遠にエマさんは王妃にはならないのですから、何か問題でもありますか?」
「ありませんね」
「だったらお好きにすれば良いと思いますけど。王妃様は予定通りエリザベート様ですよね」
「はい、エリザベートとウイル国王陛下との婚約は正式なものですから。エリザベートが成人して結婚すれば本物の王妃にエリザベートはなります」
「念のため言っておきますけど、エリザベート様を医学部とか法律学部とか実学に進学させるとかさせないでくださいね」
「バイエルンの家風としては実学に進学しそうなので、それはお約束できません。決めるのはエリザベートですし」
「そうですか。今のうちに手を打っておきましょう。エマさん、お話は以上です。ご苦労様でした」
秘書の方から、総長の署名と捺印のある特別医師免許証を渡されると、応接室を私は文字通り追い出された。
総長は、私のことをエマさんとしか呼ばなかった。総長は私のことを王妃としては認めていないことを態度と言葉で示したかっただけのように感じた。
私としては正式の医師免許がもらえれば文句はないけど。王妃という自覚もないし。でもどうして腹が立つのだろう。エリザベートには「様」付けで。私は「さん」だったし。
私は晴れて医者を名乗ることができるようになった。
さてゆきちゃんをどうしよう。ユータリアには看護師学校はないので、看護師さんはベテランの看護師さんがやっている塾に行って看護師の免状をもらうことで看護師を名乗っている。修業年限も決まってないので、技量はバラバラなのが問題だったりする。
ヒノモトでは看護師学校があるのでそこを卒業すると正式に看護師になれる。修業年限は三年。ゆきちゃんをヒノモトに留学も考えたのだけど、ゆきちゃんってアンデットだし。私が保護者なので、長期に目を離すことができない。
ミカサにお願いすれば看護師免許状はすぐにもらえるとは思うのだけど。アカデメイアに看護師学校を作ろうか? と現在悩んでいる。ほとんどお金の出どころをどうするのかだけど。シャイロックさんに、相談した方が良いのだけど、シャイロックさんは苦手だ。
正式な医師免許ももらったので、ここにいても仕方がない。もう少しこの大学街を観光したいのだけど、私の行く所トラブルだらけだし、今回はアカデメイアに戻ることにした。
久しぶりにクルト診療所にやってきた。隣の聖女の薬草店に行ったら、相変わらず子どもたちがいっぱいでもはや、、薬草店ではなく保育園になっていた。これはどうにかしないといけない。
「コゼット、ゆきちゃんはどこに行っているの?」
「ゆきさんはお隣でお仕事してます」ということでクルト診療所にやって来たわけで、ここも相変わらず患者さんで混んでいる。




