お医者さんになったその2
「ハンス学部長、アカデメイアが大変な時に逃げ出したのは本当のことですか?」
「エマ君、僕は逃げてはいない隠れただけです。シャイロック君ですか。彼はうるさいです。私はアカデメイアがどうなろうと知ったことではありません!」
ハンスさんに行政のトップは無理だ。ハンスさんはエルフだし人種の気持ちがわからないのは仕方ないけど。
「ハンス学部長、医学部の運営に専念してください。新しい町長を探しますから?」
「町長選挙をすれば良いじゃない。地元のことは地元の人間が決めれば良いわけで」
「今回は、選挙という言葉もわからない人が多いから、エマさんが探してきた人を町長候補にして、選挙ってこういうもんだよって、やらせの選挙でも良いじゃないか。エルフの長老選挙なんて数年ほど選挙運動をするよ。誰がなるのか決まっているのにね」
「町長選挙ですか。考えてみます」賢者様と相談しないと私には選挙なるものがわからない。
「ハンス学部長、私にちゃんとした医師免許を交付してください」
「なぜ、王妃に医師免許などという下賤なものを渡さないといけないのですか?」
「ハンス学部長、医師免許は下賤なものではありません。どうしてそんなひどい事を仰るのか理解できません」
「私の言葉ではなく、王立大学総長のお言葉です。エマ君に医師免許を交付できなかったのは、私の上司である総長の反対があったから」
「ということは私には医師免許は交付できないってことですか?」
「エマ君の周囲に危険なオーラが出ています。医師免許は私の判断で出せますけど、ちゃんとした医師免許ではありません。総長の署名とハンコがないので」
「これが医師免許です。私の署名とハンコは捺してありますその隣に総長の署名とハンコで正式なちゃんとした医師免許になります」
「この医師免許に総長の署名とハンコをもらえば良いのですね!」
「そうだけど、総長のヒンデンブルクさんって頭の固い頑固ジジイだから、無理ではないかなあ。話すだけ時間の無駄だと思うよ」
「ヒンデンブルク総長はどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「プラトニカ。王立大学の本部があってそこの総長室にいるはず」
「プラトニカですね。行って署名とハンコを貰ってきます」
「ヒンデンブルク総長って大魔法使いなので、戦うのはプラトニカの街の外でお願いします。街が間違いなくなくなるから。これ冗談ではないから」
署名とハンコを貰うだけなのに、決闘が前提ってあり得ないのですけど。
プラトニカにかやって来た。大学の街って感じで、本を読みながら歩いている人が多い。ぶつかっても左右にさっと分かれてそのまま歩き出す。
書店も多いけど、実験器具を売っているお店も多い。実験器具をじっと眺めてはため息をついている人もよくいる。
大学構内に入るとあちこちにスポンサー募集の貼り紙してあった。化学というか錬金術系の人はお金がかかるからスポンサーがいないと研究ができないみたい。後はここに貼っても仕方ないと思うのだけど、家庭教師しますとかの貼り紙が多い。
大学の本部にやってきた。受付の人に総長との面会をお願いしたら、一月前に予約しないと会うことはできないと言われた。
「あのう、ここは王立大学ですよね」
「王立大学ですが何か?」
「私は王妃ですが」
「あなたが王妃ですか? 何かそれを証明できるものの提示をお願いします」
王妃の身分証明書なんてあるわけないだろう。ウイルは私を王妃に任命したけど、辞令はくれなかった。医師免許証でも見せるか。
「医師免許証です。ご確認お願いします」
「エマ・フォン・バイエルン。ふむ、ハンス学部長の署名とハンコもあるけど、総長の署名とハンコがない」
「あなたがエマ様なのは確認できました。確かにこれは医師免許証状ですが、なぜ総長の署名とハンコがないのでしょうか?」
「抜けてるから、署名とハンコを貰いにきたわけで」
「大学の不手際を糾弾に来られたわけですか?」
「そういうことではなくですね、署名とハンコさえ貰えればすぐに帰りますから」
「クレーム担当の部署に回しますので、応接室でしばらくお待ち下さいますようお願いします」
私は応接室に通されて、お茶が出されようとしたら、ディアブロさんがそのお茶を飲んで一言、「ひどい。あり得ない不味さだ」と言った。




