お医者さんになった
脳筋クランツからゆきちゃんを奪い、私たちはアカデメイアに向かって飛んでいる。
「ゆきちゃん、クランツ王子のことですけど」
「俺の妻になれ、嫁になれですか?」
「嫁になるって家同士が決めることなんでしょう。 ウチの両親は古代ダンジョン勤務ですしね。一応両親に相談はしないとはと思ってます。両親が良いと言うなら嫁に行きます。親孝行になりますから。ダンジョンに行って相談するつもりです。エマさんも来ますか?」
「ゆきちゃんって親孝行で結婚するわけ?」
「ウチの村では親同士が勝手に結婚を決めるのが当たり前でしたから」
「ゆきちゃんが、ダンジョンに行く時は一緒に行くので必ず声をかけてね」
「承知しました。エマさん」
「大家さん、ただいま戻りました」
「エマさん、おかえりなさい。疲れているところ申し訳ないのだけれど、エマさんにお客様が来ているの」
「私、今日、アカデメイアに戻ることを誰にも話していないのですが」
「シャイロックさんがね、ここ毎日、来られてますから。最近では私とお茶しに来てるみたいになってしまいました」大家さんが楽しそうだ。解せぬ。あんな頑固ジジイとお茶しても楽しくないと思う。
シャイロックさんか。絶対もめ事だよね。怒られる。
「エマさん、あなたは私を財務長官にしたら、全部私に丸投げですか?」
「ここの責任者はハンス学部長でして。そのう、私にも色々ありまして、ごめんなさい」
「ハンスはクビにしなさい。ああいう無責任な人間が一番私は嫌いです。大変な時にいなくなって、落ち着いたら戻ってくるとは、一体どういう了見なんですか!」
「ハンス学部長は医学部のことに専念してもらいます。聖女国から責任感のある方を連れてきます。ごめんなさい」
「ところで、アカデメイアの食料事情は良くなりましたか?」
「以前に比較すると改善されましたな。第一軍団が耕作地を作ってくれたのが大きい。第一軍団は常に勤勉で大変気持ちが良いです。素晴らしい」
「そうですか。では、以前お約束したように家庭菜園は禁止しますね」
「ちょっと待ってもらえますか。お年寄りは遠くの耕作地までは行けません。ささやかな家庭菜園は認めてもらいたい。その分家賃は値上げしますけれどね」
良かった。シャイロックさんだ。情には流されない。ブレないわ。
「承知しました。そのようにします」終わったこれでシャイロックさんが帰ってくれる。
「エマさん、それでは本題に入ります」
終わってなかったの。「本題とはなんでしょうか?」
「人手が足りません。財務も街のあらゆる運営に携わる部門に人間が足りません」
「この街には医者は売るほどいますが、行政官がゼロです。これまでは適当にやってきたので、見た目回っていただけ。問題は山積みで、責任者はすぐに逃げ出す。すべての問題がですよ、私に任されている状態です」
「申し訳ありません。まさかアカデメイアがそこまでだとは思ってもいませんでした」
「私もこの街で生まれて育ってきましたが、ここまでダメだとは思ってもおりませんでした」
「責任感のある街の行政トップとその部下の手配をよろしくお願いします」
「はい、早急に手配いたします」
私がそう言うとシャイロックさんは満足そうに席を立ち、大家さんに「またお茶しに来ます」と、満面の笑顔で話し、大家さんも「お待ちしております」って言ってるし、仲がとっても良いみたい。
シャイロックさんが帰ると大家さんが「ああいう正義感のある男性ってなかなかいないのよ。口は確かに悪いけど、間違ったことはおっしゃらないの。エマさんも結婚相手はああいう方が良いと思うわ」
絶対に嫌だ。私は父上みたいな温厚な男性が良い。シャイロックさんみたいな激しい人は嫌だ。
「私は父上みたいな方が好きです」
「エマさんのお父様はなんというか、優柔不断というか、はっきりしない。ごめんなさいね。シャイロックさんと比べてしまって」
「いえ、その通りですから」母上と付き合う以上、ああならないといけなかったわけで。父上の責任ではないから。
有能な行政官ですか。ハア、聖女国にもサーウエストにもほしいよ。どこにいるのそういう人たちが、ウン、ホーエル・バッハにいる! 魔法学校を途中退学してしまった優秀な子たちが。アカデメイアにも魔法学校を作って、昼間は街の行政、夜は学校に行ってもらうとかどうだろう。
優秀な行政官か? 父上はサーウエストをお願いしてるし、もし父上を異動させたらフィンヤさんが倒れるだろうな。もう一人オットさんがいるけど、問題は前国王陛下を街の町長さんにしても良いかどうこと。本人に尋ねてみるか。断られたら、ミーアさんに誰か探してもらおう。
ダイキチさんは、イン国に行きたいらしいし。その穴を埋める人材を。フウー。王都には役に立たない元代官とかその部下とかがたくさんいるのに。再教育も考えたけれど、性根が腐っている人が多過ぎる。
親は使えないけど、その子どもたちの中には将来有望な子もいるかも、当然庶民の子の中にも優秀な子がいるかも。私が楽をするためには、将来に向けての人材育成が急務かもしれない。




