長官捕獲作戦その2
聖女国を出てウエスランドに馬車は入った。男の子はヴィクターで遊び疲れたのか熟睡している。ヴィクターは「逃げちゃあダメだ、逃げちゃあダメだ」とぶつぶつ言っている。頑張ってヴィクター君。
ヴィクターと男の子は馬車を降りて宿屋に入った。長官たちもその宿屋とほど近い宿屋に部屋をとった。何人かのガタイの良い男たちは馬屋で荷馬車の番をしている。
厄介なのはバイエルンの秘密部隊が長官たちの宿屋を襲撃しそうなことだだった。応援は頼んだけれど、私たちの邪魔は頼んでいない。
レクターは初めから長官の存在をしていて、私たちには女の子を追わせて、出し抜くつもりだったのかもしれない。
長官さんたちも勘づいたようで、バイエルンの秘密部隊を強襲して全滅させていた。殺られる前に殺るの見本を見せてもらった。長官さんの方が一枚上手だった。
その夜に長官たちは動いた。深夜、荷馬車で港に行き、木箱を船に乗せ、長官さんは船の中へ。男の人、二人がライフルらしき物を持って船の入口を警備していた。程なく男の子とヴィクターを乗せた馬車が到着してヴィクターと男の子は船の中へ入って行った。警備の男たちも船に乗ると、すうっと船は静かに沖に向かって動き出した。
私とウエルテルはそれを眺めていた。船が突然何かとぶつかったみたいに大きく揺れた。船員が大慌てで甲板を走り回っている。
長官さんが船室から出て来たので、私は「ヴィクターを返しなさい。うちの技術者も返してくれるなら、今回だけは目をつぶってあげるから」と拡声魔道具で呼びかけた。
私としてはバイエルンの軍事機密なんてものは見たくもない。それにロ国の人は一人たりともユータリアに入れないように結界を調整したので、ロ国は二度とユータリアに来られないから。
長官さんが、ガタイの良い男と男の子を甲板に呼び出した。男の子に長官さんが何かを言っているけど、男の子は首を横に振っている。ガタイの良い男が男の子を持ち上げて、なぜかこちらに放り投げた。死んじゃうよ。馬鹿なのって思ったら、男の子は私たちの十メートル前に綺麗に着地した。
男の子が一言「私に従え」と私たちに命令した。ギアスをかけに来たのか。納得した。
「ねえ、君、私たちにはあなたのギアスはきかないの」
「それは知っている」
「はっ?」
「ヴィクターって子は私のギアスにかかっている振りなのも知っている」
「ギアスにかかると、私が命令すると慌てて必死に命令似従うのに、ヴィクターって子は頑張ってやらなくてはという感じだったから」
「ヴィクターの演技が下手だったのか。想定内だけど」
「ギアスがダメだったらどうするのか?」
「こうするのさ」男の子は一気に私との間をつめて短刀で私を刺そうとしたのをウエルテルが短刀を払いのけて、男の子を押し返したら、「ごめん」とウエルテルが男の子に謝っていた。意味がわからない。
男の子も真っ赤な顔になって「誰にも言うな」って言ってるし。私だけ、はぶかれてる。気分が悪い。
甲板にヴィクターが連れて来られ、頭に銃口をつきつけられていた。
長官さんが、「我々を解放しろ、解放しないとコイツが死ぬぞ」と言っている。
「長官さん、拳銃の引き金は動かないです。無駄な足掻きはやめて投降してください。悪いようにはしませんから」
長官さんが拳銃の引き金を引いた。私の言った通り引き金は固定されてまったく動かなかった。ヴィクターは涙を流している。怖い思いをさせてごめん。
「もはやこれまで」と長官さんが言っている。
男の子が「船を爆破するつもりです」という。
「火薬ってどのあたりにあるのかしら」
「船底の中央です」と男の子が素直に答えてくれた。
「船に火をつけろ」と長官さんが叫んでいるけど、船員さんも、長官さんの部下も両手を頭の後ろに組んで、甲板にうつ伏せになっている。
「あの人たちは何をしているの?」
「長官以外はみんな降伏したようです」
「長官、火薬が水浸しで使い物になりません」と言いながら男が一人甲板のところに戻って来ていた。で、周囲を見てこの男の人も降伏のポーズをとった。
「長官、船が宙に浮いています」とガタイの良い男が言う。
「だから、お伽話の国に行くのは嫌だったんだ。何もかもが非常識なんだから、なんで船が空を飛ぶのか? おかしいだろう」と長官さんが力なく愚痴っていた。




