長官捕獲作戦
「そんなことはないから安心して」と私はニッコリ微笑んだ。
「ウエルテル!」
「ヴィクター安心して、僕たちは親友だ」
「ウエルテルを信じるよ」おいコラ、ヴィクター、私のことは信じないのか?
「ヴィクターはこの後、いつも通りスライムハウスに戻ってください」ヴィクターは「死んだらエマさんのところに化けて出てやる」とかつぶやいてる。殺させはしないのに、本当に信用されてないなあ。
「ねえ、マルクル、今長官がどこにいるのかわかるかしら?」
「あっちの方から臭ってくるな」
「中庭の方ですね。聖女様」
「ミーアさん、警戒レベルはこのままで、長官さんの仲間にはギアスを使える者がいます。下手に近づかないように。おそらく出入りの商人は、ギアスで操られているだけなので罰したりしないでくださいね」
「聖女様のご命令通りに」
「エマ、計画は?」
「そうね。ヴィクターを誘拐してもらって、ユータリアを脱出する直前に捕まえるかな」
「ウエルテル、ギアスを無効化できる魔道具ってできないかしら?」
「できるけど、六人分なら二時間はかかる」
「ヴィクターに一つだけで良いわ」
「ギアスを防ぐ魔道具ができるまで、私から離れないでくださいね」
「マルクルも一緒に来て、その前にその格好は不味いわね」
「マルクル、何か希望はある」
「毛皮がほしい。毛がまったくないのは真っ裸で恥ずかしい」
「了解。先ずはみんなで衣装部屋に行って魔道具室でウエルテルはヴィクターに魔道具を渡して、ヴィクターはスライムハウスへ」
「エマ、俺、そのギアスとかにかけられていないよな」
「ここにいる人は今のところはかけられてないから安心して」
「ヴィクター、相手があなたにギアスをかけてきたら、ちゃんとかかったフリをしてね」と私はギアスを予防するメガネを掛けたヴィクターに言った。笑いをこらえながら。こんなにメガネが似合わない人は珍しいかも。
「エマさん、なぜそんなに楽しそうなんでしょうか? 僕けっこう不安でいっぱいなんですけど」
「ヴィクターってメガネが本当に似合わないなって思って」
「僕は嫌われている」
「ヴィクター、遊ばれているだけだって。心配ない。それより相手の言いなりになるように。ギアスがかかってないことが連中にわかると、命が危ない」
「わかった」
「じゃ、ヴィクターはスライムハウスに戻って」
「わかったよ。そのう、護衛とかはいないの」
「使い魔が見張っているからヴィクターがどこに連れて行かれたのかはわかるから。大丈夫」
「そうか。わかったよ。みんな今までありがとう。楽しかったよ」となぜか笑顔で立ち去ったヴィクターだった。
「かなり、いっぱいいっぱいだね、エマ」
使い魔がヴィクターに近寄った男の子がヴィクターにギアスをかけたと報告してきた。仕事が早いなぁ。
ヴィクターは男の子と一緒に屋敷の外に出た。
「マルクル、長官はどっちかしら?」
「あっちにいる」
「まだ、中庭にいるみたいですね。聖女様」
「こっちに向かって来ている」
荷車私引いた男たちがこちらに向かってくるのが見えた。私たちとすれ違った。
「荷車に何人か寝かされている」とウエルテルが言う。
製造部員も誘拐された。でも頬に傷のある男はいなかった。
「頬に傷のある男はいなかったけど」
「化粧で隠していた。目立つものね。荷車を引いていたのは二人だったけど実際に引いていたのは一人。引いたフリをしていたのがおそらく長官だと思う」
ヴィクターは馬車に乗った。聖女国を出るつもりだ。
「ミーアさん、ダイキチさん、私とウエルテルはヴィクターの後を追います。私たちがいなくなった後は警戒レベルを最高にして、明日のバザールは延期してください。それとマルクルにご飯をあげてください」
「マルクル、屋敷の番をお願いね」
「おお、飯、食ったらな」
ヴィクターが乗った馬車はウエスランドに向かっている。長官さんたちは荷馬車に乗って別行動をしている。尾行を警戒しているのがよくわかる。私たちは長官さんたちは使い魔に任せてヴィクターの後を追った。ウエルテルはフライングボードに乗って、私はヴァッサで後を追う。
ヴィクターと一緒に馬車に乗ってる男の子がヴィクターに踊れとか歌えとか命令して楽しそう。ヴィクターはかなり辛そう。




