「彼女」と会う
「彼女」の部屋の前に立っている。深呼吸をした。
「エマお嬢様、どうされましたか?」
「メアリー、ちょっと深呼吸をしました」
「妹君に会うだけなのに緊張ですか?」
「色々あってね」私に「彼女」が用があると言うことは、確定した未来があると言うことだから。
「メアリー、扉を開けてちょうだい」
「エマお嬢様が来られました」とメアリーが言うと「彼女」の侍女が扉を開けた。
「彼女」は相変わらずベビーベッドで寝ている。侍女たちは「彼女」が相変わらず一言も話さないので不安そうだ。レクターと比べてるから余計を心配している。
「お姉様、お久しぶりです」
「バイエルンを勘当されたから、里帰りができなくて。ごめんなさい」私たちは念話をしている。周りからは、私は「彼女」のベッドの近くに置かれた椅子にかけているだけにしか見えない。
「ハンニバル兄上を国王にしてはいけません。各地に軍隊を送ってユータリア全土に戦争をもたらします」
「レクター兄上は王都に攻め込みます。それを許してはいけません。多くの人が亡くなります」
レクターって名探偵ではなく悪の天才だったのかもしれない。
「ありがとう。教えてくれて」
「私は、姉上にとても期待しています」と「彼女」が微笑んだ。周囲の人がびっくりしている。私と会った時だけ笑顔を見せるそうだ。
私は急いで大広間に戻って「レクター、もし王都に攻め込んで場合は私は容赦はしないので覚えておいてくださいね」
「このバイエルンに僕以上の知恵者がいるとはびっくりしました。了解しました。王都進軍以外の手段を考えます」とレクターは楽しそうに笑っていた。ハンニバルはそれを不気味そうに眺めていた。
私は聖女国に戻ったものの、どうしたものかと悩んでいた。どこにでもいそうな、この特徴のない女性を探せるとはとても思えない。
「ウエルテル、ヴィクター、この女の人が聖女国に潜んでいるらしいの。バイエルンは独自でウエストランドでのこの女の人の足取りを追うそうよ。バイエルンはこの人に軍事機密を持ち出されたらしいの」
「エマさん、この女の人は難しいと思う。あの美人の女性を探さなくて良いの? あの女の人の方が手がかりがあると思うのだけど」
「お化粧をとったらあの美人はこう言う顔になるの。同一人物です」
「まさか」とヴィクターが驚いていた。私もお化粧を研究すれば美人と呼ばれるかしら。一度ゆっくり考えてみよう。
「ミーアさんに、それと今日捕獲されたダイキチさんにも相談した方が良いよ」
ダイキチさんは幾度となく脱走するようになったので今では常時捕獲班が結成されている。ダイキチさんの脱走はダイキチさんのストレス発散だと言うことで、ある程度解消されてから捕獲班が向かうことになっている。当然、ダイキチさん本人には知らせていない。
捕獲されたてでムスっとしているダイキチさんを交えて、女性スパイの件について説明をした。
「あの美人が化粧を落としたら、この顔になるのかあ。化粧ってすごいな。今度脱走する時は化粧道具は必須アイテムだな」
そのガタイの良さはいくら化粧をしても隠せないと思うよ。
「難民キャンプに潜り込まれては、探すのは無理ではないかと思います聖女様」
「レクターは真水製造装置を秘密を掴むまではこの街にいるはずだと言っていました」
「エマさん、真水製造装置に秘密なんてないと思うけど。スライムがいて、室温を十八度にするだけ。ドラゴンの魔石が必須だから、簡単には作れないし」
「相手はそのことが秘密情報だとは思ってないから」
「狙われるとしたら、ヴィクターだよね。エマ」
「一発逆転狙いなら、ヴィクターを誘拐するのが一番手っ取り早いよね。ウエルテル」私たちはニッコリ微笑んだ。一人ヴィクターが青い顔している。
「二人とも、僕を囮にしようとか考えてないよね」私たちはまたニッコリ微笑んだ。
「二人とも残念だったね。僕はスライムハウスに住んだいるので、街に出ることはない」
「何よ。スライムハウスって?」
「スライムを飼育している建物のことを僕たちはスライムハウスと呼んでいる。真水製造関係の人間は全員、スライムハウスに住んでいる。食事は王城の食堂で食べているので、僕たちは誰も街には出ない」
「街にみんなアパートとか下宿とか借りていたはずよ」
「通勤が面倒だし、スライムハウスは常に室温は十八度で快適だし、ミーアさんが王城に大浴場を作ってくれたし、僕たちは素晴らしいスライムハウス生活を送っている。急に僕が下宿に戻るのは不自然。相手は警戒するから、僕を囮にするという計画は残念な結果しかもたらさないよ」




