女スパイ
「手がかりはありますか? 姉上」
「手がかりはその女性の絵姿と、外国訛りぐらいしかないわ」
レクターがお付きの人に私が持ってきた女性の絵姿を取りに来させた。お付きの人に絵姿を渡した。
レクターはハンニバルと二人でその絵姿を見てニヤリと笑った。
「この女性ですが、私たちが追っているスパイの特徴と一致しているます」
「ハンニバル兄上、この絵姿で捜査は大きく進展すると思うのですが?」
「レクター、もう国外に逃げたかもしれない」
「うちの軍事機密はかなり盗まれたましたが、聖女国はまだです。聖女国に潜伏していると考えるのが自然です。兄上」
「姉上、この女性はどこで、いつ最後に見かけられたかわかりますか?」
「三ヶ月ほど前、ちょっとマニアックな酒場で、総務部局長と接触したのが最後です。その酒場は、局長が正気を取り戻した途端店を閉めて、店主も従業員も全員行方不明。手がかりはないわ」
「外国の諜報部が組織的に動いているのがわかりました。フリーの仕事ではありませんね。その女性の言葉の訛りはどこかわかりますか?」
「それはわからないの。確かに外国訛りなんだけど、どこかまでは特定できていないの」
「うちの調べではウエストランド訛りだということがわかっています。既に姉上の国が聖女国やバイエルンを調査するはずがないので、ウエストランドで言葉を学んだ外国人だと、僕は思います」
さすが未来の名探偵だ。洞察力がすごい。
「ウエストランド訛りの女性がウイル国王暗殺計画と関係があるの。今回の犯人とは関係ないかもしれないけれど、伝えておきます」
「王宮に暗殺者を送り込むには、紹介した貴族がいると思うのですが?」
「紹介した貴族、その家族、使用人まで全員殺害されて手がかりなしでした」
「全員が殺害されたのは確かですか?」
「馬の世話をしていた少年は牧場に行っていて無事。もう一人メイド長が行方不明になっていると聞きました」
「メイド長は屋敷のどこかに埋められていると思います。そうですか。少年が一人生き残ったのですか。興味深い」
「ペンと紙を持ってきてください」とレクターがお付きの人に命じた。お付きの人がレクターにペンと紙を渡すと、何やら絵を描いている。
お付きの人が一枚の絵姿を私に渡した。その絵はとくに特徴のない女性の絵だった。
「レクター、この人は誰ですか?」
「ウエストランドにいた頃の、私たちが探している女性です。化粧で強調している目元と口元の状態を化粧をしていない状態を想像して描いてみました」
「この人だと覚えている人はたぶんいないと思うよ」
「そうでしょうか? 姉上、ウエストランドで少々非合法な手段で捜査をしますが、見逃してもらえますよね」
「カバラさんにお願いしてみます」
「聖女国の方はこの特徴のない女性を探してくださいね」
「ええ、わかったわ」
「姉上、それとですね。ハンニバル兄上をユータリアの国王にしてもらえませんか?」
「はい?」
「ハンニバル兄上はユータリアの国王になりたいそうです」
「ハンニバル兄上が国王なら、姉上の弟ですし、ホーエル・バッハも喜びます。今の王族の身の安全も守られますよ。将来エリザベートがウイル元国王結婚すればが義理の弟になりますから」
「反対する貴族、モーゼル伯爵もウインザー侯爵も姉上の決定には従うと思います。捜査協力のお代はこのくらいでいかがでしょうか?」
「そうそう、姉上は既にご存知かと思いますが、ウインザー侯爵に接近したのはロ国の人間だと聞きました」
「イン国の大使が何かを知っているかもしれませんね」
私のポンコツ頭では理解不能の世界になってきた。ハンニバルがユータリアの国王になるのか。ウイル国王がどう判断するのかわからない。答えは保留するしかない。
「ハンニバルのことはウイル国王と相談します。もしダメだったら代金はどうすれば良いのかしら」
「お金をもらっても意味がないですから、そうですね。バイエルンは一度だけ姉上の意に沿わないことをします。それに目を瞑ってください」
「わかったわ」
「姉上、妹が姉上に会いたがってます。会ってやってください」
「彼女」が私に会いたがっているって嫌な予感しかしないのだけれど。
「ありがとう、レクター、会ってから戻るようにするわね」




