ヴィクターは書類の山の中に暮らしていた
ウエルテルと一緒に久しぶりの聖女国だ。ゆきちゃんは脳筋クランツ王子が近衛の兵士の訓練を手伝ってほしいと言うので、王城に置いて来た。別にウエルテルと二人きりになりたかった訳では断じてない。ゆきちゃんの場合、昼夜を問わず走って聖女国に戻ってくるし。
「ヴィクター、ウエルテルを連れて戻ってきてあげたわよ」とヴィクターの部屋の前に立って呼びかけた。扉から泣きながら飛び出してくるかと待機してたのだけど、物音一つしない。
ウエルテルの顔を見た。強行投入しかない。扉を開けて私たちはヴィクターの部屋に飛び込んだら、書類に埋もれた。
もしかしたら、ヴィクターはこの書類に埋もれてダメかもしれないと思ったら、寝息が聞こえてきた。
「ヴィクター、どこにいるの! 起きなさい!」
書類の中からヴィクターが体を起こした。「やあ、エマさん、ウエルテルおはよう」
「ヴィクター、この書類の山は何なの?」
「異動願いだよ。真水製造部門から総務部への異動願い」
「言っている意味がわからない。ヴィクター大丈夫か?」
「ウエルテル、僕は大丈夫。すべて却下しているから。却下してもすぐにまた異動願いを出してくるので、この有り様だよ」
「真水製造部で何かトラブルでもあったの?」
「まったく、すべて順調でみんな楽しくやっているよ」
「だったらどうして異動願いなんかを出すの?」
「製造部の人は誰一人異動を希望はしていない。この書類を作成しているのは総務部の連中、真水製造部の職員を寄越せって勝手に書いて僕に送り付けてくる」
「総務部に行ってみると良いよ、製造部から人が来ないと言って真っ青な表情で仕事をしているから」
「ヴィクター、この書類の山はいらない書類だよね」
「必要な書類も紛れているかもしれないので、ウエルテル見てもらえるかな」
「この状況では仕事どころじゃない。片付けようか」
「私は総務部に文句を言ってくるわ」
「総務部の職員みんな、何かに取り憑かれたみたいなので、気を付けた方が良いよ」
私が総務部に行く途中、「エマ、強い呪術がかけられている。防御魔法を最大にした方が良い」
「青い小鳥さん、了解です」
「総務部の皆さん、ご苦労様です」と私が総務部に入った途端、「エマ様、早く真水製造部の職員を総務部に異動させてください。でないと私は死んでしまいます」
「どういうことですか? 説明してください」
「総務部に真水製造部の人間が来ないと私は死ぬという考えが頭から離れないのです」
「局長はどこですか?」
「奥の局長室です」
私は局長室に入ったら、山ほどの書類が局長室に置かれていた。局長は何かに取り憑かれたように書類を書いていた。
「局長、聞こえますか?」
「エマ、局長を眠らせてあげなさい。既に限界にきている」
「局長、私が命じる眠れ!」ギアスをかけた。
「青い小鳥さん、局長は私の前に既にギアスをかけられた感じがしました」
「エマ、気持ち悪いだろうがこの局長の記憶を探ってみてほしい。局長のギアスを解くにしてもトラップが仕掛けられているかもしれない、そこも注意して、局長の記憶を覗いてみてほしい。このままだと局長は死ぬ」
「成人男性の記憶を探るのって嫌だよ。気持ち悪い。とは言えそれしか方法がないのだったら仕方ないか」
私は局長の新しい記憶を探った、ずっと寝ないで書類を書いている記憶しかなかった。もう少し古い記憶しかを探ると違和感を感じた。トラップだ。一つだけかな、トラップって一つ解いたら二つ目が作動してボンってことが多い。二つ目のトラップを見つけた。マニュアル通りだね。
このトラップを作った人の性格は極めて悪いのがわかる。私も前世でこういうトラップを作っていたから。この仕掛け面白い、メモしておこう。二つのトラップを解除して、古い記憶に入ったら、酒場だった。子どもに見せてはいけない雰囲気のお店だよ。
美人だけど、危なそうなお姉さんと話している。うん、この女の人の言葉には外国訛りがある。女の人は局長に真水製造部の人間を連れてきてほしいと言っている。連れてきてくれたら、良いことがあるとか。ここでギアスをかけられたのか。でもって、いくつか呪術のアイテムを局長は渡されている。
私は見たくもない局長の記憶を見るのをやめてアイテムを探した。局長室内の植木鉢の中に人形が一つ隠されていた。これ下手に動かすとダメな奴だ。本当に性格が悪い。
呪術を解かないとダメなんだけど、複雑過ぎて私にはわからない。とりあえず聖水で一時的に効果を弱めてついでに結界を張ってさらに効果を薄めてと、ウエルテルに後は任そう。
局長室を出ると総務部の人は全員が倒れていた。呪術の影響が薄れたので動けなくなったみたい。




