レオン将軍の夢
「フツ領は起伏が多い。プロシはそれに比べて平坦だな」
「レオン将軍、何を考えているのですか?」
「国境線を超えてプロシ領内に侵攻したとしたら、どことどこを押さえれば良いかを考えている」
「今ですか?」
「近い将来だ。貴族を討伐して国王を処刑して、ついでにフランソワを内憂外患罪で処刑してからになる」
「フランソワさんと国王の処刑は決定事項ですか?」
「個人的には、二人には我が儘を言わずにユータリアに亡命してほしいと願っている」
「エマ王妃、私には理解できないのだよ。生命が助かればやり直しがきくのになぜ、死に急ぐのか? 国王が処刑されれば罪に問われていない王妃は自死するだろうし、フランソワの妹も間違いなく自死する」
「エマ王妃、四人をユータリアに拉致してもらえないか? あるいは魔法で国王やフランソワを亡命するようにしてほしい」
「私は、人の生き方に干渉するつもりはありません。自発的意思でないとできません」
「そうか、ダメか。エマ王妃、時間はありますか?」
「はい、ありますが、フツ国内を一回りしてほしい」
「レオン将軍こそ、二時間も軍営を開けて良いのですか?」
「領内をたった二時間で回れるのか? 我が国は大国だと思っていたが、意外に小さい」
レオン将軍の希望で二時間フツ国巡りをした。
「エマ王妃、なぜエマ王妃は世界を支配しないのか?」
「世界征服にはまったく興味がありませんから」
「自分が夢見る国を創造できるのにか?」
「私には、難しい事は分かりませんし、政治は性に合いません」
「私は実力があれば、有能であれば国を導く者に成ってほしいと願っている。家柄とか血筋とかクソ喰らえだ」
「私の夢はフツを強国にしてプロシを倒し周辺小国をフツに編入し、大国ロ国を打ち倒す。その後イン、メイを倒し、フツ皇帝になること」
「エマ王妃はどう思う?」
「面倒なことが好きなんですね」
「私が面倒事を引き受ける代わりに、帝国臣民はどこでも自由に商売ができる。鉱山が開発できるんだよ。国境のない世界が誕生する」
「フランソワから上級大将の辞令を預かって持ってきたのだろう。私には必要ないのでネーに渡しておいてほしい」
「そうですね。皇帝を目指してる方には必要ないものですね」どうして急にこんな大事な話を初対面の私にするのかまったくわからない。
「レオン将軍、ユータリアはどうされます?」
「ユータリアは、私の理解を超えているので放置する。貿易はするだろうけれど、そこまでだ」
「どうして?」
「私は理解できないものが嫌いなんだよ。どんな素晴らしい作戦を立てても、落雷やら氷の短剣やら、ドラゴンの火炎やらで、一瞬で粉砕される。触らぬ神に祟りなし」と言って豪快にレオン将軍は笑った。
私たちはフツ国を一周してレオン将軍の野営地に戻った。二時間が経っているのに、皆さん立ったまま。国王も王妃も立ったままだった。
「ネー、なぜ国王陛下と王妃様を客人用の軍幕に案内していないのか?」
「将軍からそのような命令を受けていませんから」
「相変わらず気がきかない。ただちに国王陛下と王妃様をご案内するように」
「ネー将軍、これをレオン将軍から渡すように言われました」
「これはレオン将軍を上級大将に任命する辞令ではありませんか。レオン将軍どういうつもりですか」
「私には必要ないものだ。ネー適当に処分しておいてほしい」
「エマ王妃、私と婚約しないか?」
「はい?」
「おっしゃっていることが理解できませんけど」
「ユータリアでは結婚できる年齢は十五歳のはずだ。王妃とは言ってもまだ結婚はしていないし、婚約の儀式すらしていないと聞いた」
「よくご存知ですね」
「耳だけは良いのだ」
「厄介ごとを好んで引き受ける物好きと婚約をする気はありませんから」
「そうか、エマ王妃もかなり厄介ごとを抱えているように見える。似た者夫婦になれると思ったのだが、まあ、十五歳になったら返事をくれ」
私は皇帝の妻にはなるつもりはない。十五歳まで保留ってことに勝手にしないでほしい。
「私はこれで失礼いたします」
「いつでも私に会いに来ても良いぞ」
「ありがとうございます」と社交辞令の挨拶をして私はドラちゃんに乗って、フランソワさんのところに一度戻って、レオン将軍との話を伝えた。




