フツ国にドラゴンが現れる
私はドラちゃんの背中に乗っている。フツとプロシの国境線を巡回している。プロシの小部隊を見つけると、ドラちゃんにその小部隊の近くに火炎を吐いてもらっている。それが私の日課になっている。
フツ領の方は、火炎を吐くのはプロシの領だけなのがわかると、ドラゴン見物に来る人が日に日に増えている。最近では屋台も出ている。
国境線にドラゴンが出たこともあって、貴族側も平民側も武力衝突は控えているみたい。とくに平民派のフランソワさんはドラゴンを操っているのは私だと思っているので、絶対にドラゴンを攻撃するなと言ったらしい。溺死させられと付け加えたので、みんな理解できなかったみたい。
ある日、フツの貴族派の軍が集結していたので、ドラちゃんをその上空で旋回させていたら、貴族軍が大砲を撃ってきた。当たりはしなかったのだけど、精霊の皆さんの怒りを買って、貴族軍の上空から大量の水が落下して洪水になった。死者は出なっかようだけど、武器はすべて水に呑まれて使い物にならなくなったそうだ。
プロシ、フツの貴族派、平民派ともに動きがないまま半年近く飛んでいる。今ではドラちゃんの日課になっているので、私が忙しくて今日は飛ばなくても良いよって言っても拒否されて、付いて行く羽目になっている。生きものを飼うというのは大変だと改めて思った。
「賢者様、私はいつまでフツ領の国境線を飛べば良いのでしょうか?」
「もう、フツに行く必要はないのでドラちゃんの散歩コースを変えても問題ありませんが」
「フツ国に平和に戻るということでしょうか?」
「フツ国の憲法は制定されませんし、内戦はもはや避けられません。ただ、諸外国が露骨にフツには軍隊を派兵することは、エマ様の努力の結果なくなりましたので、オクレールとの約束は果たせと愚考いたします。ただ、平民派の代表のフランソワとその妹とバステーユ離宮にいる国王と王妃の生命は危ないかと」
「憲法が制定されないというのは、どういうことでしょうか? 半年の間議論されていたのは無駄だったのですか?」
「貴族派には元々制定する気持ちがありませんでしたし、平民派はレオン将軍とネー将軍を中心にしたグループが、勢力を拡大していてもはや貴族との戦争は避けられないかと思います」
「フランソワさんたちを救出する準備が必要になるのではないのでしょうか?」
「フランソワは逃げたりしないと思います。妹だけは助けたいかもですが、おそらく妹もフランソワとともにいることを願うのではと愚考いたします」
「ダメ元で、フランソワさんに会ってきます」
「エマ様のお心のままに」
「では、今から行ってきます。後はよろしくお願いします」
「エマ様、トラブルは起こさないようにお願いします」と厳しい表情でレヴィ様に見つめられた。
私だってトラブルを起こしたくて起こしているわけではない。私はトラブルに愛されているだけだもの。
フランソワさんは焼け落ちた王城にいた。
「フランソワさん、憲法制定を制定するのは無理だと聞きました」
「耳が早いな、とはいえ可能性があるうちは俺は諦めない」
「平民派はレオン将軍とネー将軍のグループが押さえたとも聞きました。フランソワさんとミレーヌさんの生命が危ないとも」
「俺はいつでも、どこにいても危ない。問題はミレーヌだ。兄として妹を道連れにするつもりはないのだが、どうしても逃げてくれない。ちょうど良い、ミレーヌを拉致してユータリアに連れて行ってくれ」
「お兄様、私はいつもお兄様と一緒ですから。エマ様、ユータリアには参りません」
「俺はレオン将軍を上級大将に任命する辞令を書いている。レオンが上級大将になれば革命軍の実質トップになる。貴族との決戦は避けられない。で、エマ殿には悪いが国王と王妃をレオン将軍の元に連れて行ってほしい」
「国王と王妃様が危険では」
「国王と王妃は平民の人気が高い。レオンも貴族との決戦を前にして国王も王妃も処刑したりはしない。国王と王妃が貴族に捕まると厄介だ」
「国王と王妃様に亡命を勧めるのはどうでしょう」
「無駄だよ、俺と同じだ。死ぬ時はここで死にたい人たちだから。少し待ってくれ。国王にも手紙を書くので」
「俺は国王に会ったことはないが、レオンのところに行けば多少は長生きができると書いておいた」




