フランソワさんの苦い顔
脇道の検問はその後二か所あったが、ゆきちゃん一人で片付けてしまった。お陰で食料が調達できて飢えずに済んだ。
貴族狩りの部隊にも遭遇したけれど、貴族狩り部隊の方が私たちを見るなり撤退してしまって。やる気満々のゆきちゃんが不機嫌になってしまった。
私も相手方の部隊長だったら王城の事件を知っていれば戦闘は避ける。こんなことだったらわざわざ脇道を進む必要がなかったかもしれないと思った。
街に到着したので、私も皆んなと一緒に海岸のボートにすぐに行くべきなんだけれども、フランソワさんがどうなったのか確認しないと、ミレーヌさんに申し訳ない。
私は残って、ゆきちゃんたちに海岸のボートに行ってすぐに出発するようにと指示を出した。
「エマさん、私たちはとっととこの国から出ますから。後はご自分の力でユートリアまで直帰してくださいね」
「ゆきちゃん、了解です」
私とミレーヌさんは旧市庁舎に向かった。入口には警備の人はいなかった。それどころか街の中を歩いている人もいない。お店もすべて閉まっている。ゴーストタウンになっている。
「エマ様、街の様子が変です」
「確かに変ですね」
「エマ様、旧市庁舎に入ってみますか?」
「ミレーヌさんは私の後ろにいてください」
「承知しました」
私たちはゆっくり旧市庁舎に入って行った。中には誰もいない。おかしい。今の今まで仕事をしていたように見える。もしかしたら、私が戻ってきたので皆んな逃げ出したのかも。
「ミレーヌさん、皆さん逃げたみたいです」
「エマ様、あの部屋から人の気配がしました」
市長室って掲示されている部屋に人がいる。私はその部屋のドアをノックすると男の人の声で「どうぞ」と返事があった。扉を開けると苦い顔をしたフランソワさんがそこに座っていた。
「ミレーヌ、尋ねたいことがある。王城が燃えて死者やケガ人が多数出たという噂は本当なのか?」
「王城が燃えたのはその通りです。ケガ人も多数出ていました。死者についてはわかりません。お兄様」
「死者が一名出たのは確かだ。革命派の指導者一名が全身ずぶ濡れになって溺死したという報告があった」
「王城が燃えているのに溺死ってまったくもって理解できないのだが、魔法使いのエマ殿なら説明できるだろうな」
あの時私は王城の火災を消そうとはしなかった。落雷で、氷の短剣で刺されて亡くなった人はいたかもしれないけれども、溺死はない。でも私を銃で狙撃した人だとしたら。
「私は、一部屋だけ水浸しにしたかもしれません」
「王城の火災を消そうとしたのではなく、一部屋だけ水浸しにしたわけか?」
「銃で撃たれたので、水攻めをしたかもしれません」
「エマ殿を銃撃すると水攻めされるわけか。部下に伝えておくよ。絶対にエマ殿を銃撃しないようにとね」
「私が平民派代表になったとオクレール伯爵に伝えてほしい。会議には必ず出席してほしいとね。それと申し訳ないがオクレール伯爵の身の安全は保証しかねるとも伝えてほしい」
「必ず伝えます。フランソワさん」
「お兄様、この街の人はどこに行ったのでしょうか? 誰も街の中を歩いていません。お店も閉まっています」
「王城を燃やし、王都の市民を多数殺害したと噂される人間がこの街にいるのだから、こういう状況になるのは当然ではないか!」
「そうそう私が革命派の指導者に戻れたのは、ミレーヌがエマ殿と行動をともにしていたお陰だよ」
「お兄様、どういうことでしょうか?」
「どうと言う事でもないさ。私がエマ殿に依頼して私の敵を一掃したことになっている。私の後ろには恐ろしい死神が付いているそうだ」
私が死神なのは否定しない。私がフランソワさんの後ろ盾か? それは好都合だ。
「フランソワさん、その誤解を最大限に利用して会議を成功させてくださいませ」
「もう一度問うが、エマ殿、ユートリアは本当にフツの内政に干渉しないと。あなたは、あなたの神に誓えるか?」
「誓います」
「私としては二度とエマ殿にはここに来てはほしくはない」
「お兄様、それは言い過ぎでは」
「良いのです。私はフツの皆さまにそう言われても仕方のないことをいたしました。しかしながら、私は、たぶんまたここに来ると思います」
「エマ殿、今度来られた時は何もせず大人しく帰ってくれるようお願いするよ。エマ殿、あなたとの話はこれで終わりだ。さっさと帰ってくれないか」
「お兄様!」
「ミレーヌには話があるここに残ってくれ」




