マリアの弟たち救出作戦
「二人は王立学校の寄宿舎に入っているため、今回は連れてこられませんでした。二人の母親たちも自分の子を残しては行けないと、ガンとして動きませんでした」
「母上、父上が亡命したことが露見すれば弟たちはとても危険な立場に立ちます。真っ先に処刑されるかもしれません」
「それをエマ様に相談しようと思っているのよ。マリア」
「自己紹介が遅れて申し訳ございません。王妃様、私はマリアの父でマルセル・ドゥ・オクレール伯爵と申します」
「私はマリアの母のジゼルでございます。慈悲深いエマ様、マリアの弟たちを救っていただきたく。どうかお願いいたします」
私は慈悲深くもないし、それに、救出してくれと言われても何をどうすれば良いのかまったくわからない。ウエルテルだけでも連れてくれば良かった。どうしよう。
マリアが私の顔をじっと見つめている。うんと言うしかないのだけれど。でも下手をするとフツ国の内戦に巻き込まれる。それを見越してマリアの両親は自分の子どもたちを残してきた可能性だってあるのだから。
「マリアちゃん、弟さんたちをここに連れてくるだけで良いんだよね」
「ゆきちゃん、簡単に言うけど、子どもたちとその母親も入れて四人だよ」
「ボートが一隻と私とマリアちゃんとエマさんで、助けに行けばどうってことないでしょう」
「ねえ、ゆきちゃん、私は」とニコラがかなりのお怒りモードでゆきちゃんに尋ねた。
「ニコラちゃんは足手まといになるから。それにニコラちゃんの出番があるとすれば、誰かが傷つき、誰かが死んでるかも。それは作戦した時ですから」
「どうして、私が足手まといになるのよ!」
「ニコラちゃんは治癒魔法しか使えないでしょう。それとニコラちゃんには人が殺せないもの」
「この救出作戦で私たちは軽く見積もって数十人の人の生命を奪うと思います」
ニコラが無言になってしまった。
「ニコラちゃんはヒーラーです。人を殺しちゃいけないの。救わないと。奪うのは軍人の私に任せてくださいな」
ニコラはたとえ自分を殺そうとした者であっても、その者が傷ついていれば癒しを与える子なのを私も知っている。
「ニコラ、傷ついた人があなたの目の前にいて、私が撤退を命じたら撤退してくれるかしら?」
「エマ様の命令なら従います」と酷く暗い顔でニコラが答えた。
「ゆきちゃん、ニコラが私の命令には従うそうよ」
「それなら問題はありません、ただし命令違反をするとニコラちゃんの生命がなくなりますから」とゆきちゃんが平然と言い放った。
「それで、ゆきちゃんどうやってマリアの弟たちと母親たちを救出するつもりなの」
「カバラさんから、ウエストランドの高速艇を借りて、エマさん、私、マリアちゃん、ニコラちゃんがフツ国に潜りこみます。敵を避けながら王立学校の弟さんたちの所に行きます。後は敵を排除しながら、弟さんたちの母親たちと合流して、高速艇でフツ国を脱出です」
簡単に言ってくれる。
「一番の問題は弟さんたちがどこにいるのかがわからないこと、それはエマさんの使い魔に期待しています」
「二番目の問題は私は魔法が使えないので姿が消せないことですかね」
「私も姿を隠せる時間はせいぜい三十分が良いところ」とマリアが言う。
「マリアってもっと姿が隠せたと思うのだけど」
「フツ国に戻るとここにいる時よりも魔法が使えなくなるの」
契約魔法の影響かな?
「マリアのおうちって魔法が使えるのは女性だけなのかしら?」
「エマ、よくわかったわね。オクレール家は代々女性だけが魔法が使えるの。男の人はまったく使えないのよ。不思議だよね」
先祖が男性だったから、契約魔法に縛られて魔法が使えないだけかも。マリアのお父様で実験したい。時間がないから次の機会にするか。
「姿を隠すために、皆んなに光学迷彩魔法を附与したローブを皆んなに渡します。着用してください」
「もしかすると、私の魔法もフツ国では制限されるかもしれません。私を当てにしないでくださいね」と念のため私は言っておいた。
「第三の問題ですが、敵の数も配置もまったくわかりません。フツ国に潜入後調査することになります。計画はフツ国潜入後立てることになります」
ゆきちゃんっていつの間に軍人さんになったのだろう。指示がテキパキしている。
「マリアちゃんのお父様、フツ国で信頼できる協力者を紹介してほしいのですが」
「フツ国、潜入後、フツ国の地理に詳しい人が必要になります」
「わかった。侍女のミレーヌに手紙を書こう」
「あなた、ミレーヌの兄は平民派のリーダーよ」




