リーベンとの晩餐会
「嘘だろう。あれは伝説ではなかったのか。ヒノモトがここにもあるなんて! 三種の神器はあの姫君が持っているのか」
「初めてお目にかかります。ミカサ姫、私はヒノモトの伯爵でアカシと申します。まさか八百年前に国をお捨てになられた天子様のご子孫に会えるとは思ってもおりませんでした」
「初めまして、アカシ伯爵。訂正しておきたいのだが、私たちの祖先は国賊から神器を守るために国を出たわけで、捨てたわけではありません。私たちの一族に連なる者がまた天子に戻って国政を行えることを嬉しく思っています」
「ミカサ姫、我が国の国宝を守って頂きありがとうございます。我が国も国賊を倒し、帝の国に戻りましたので、三種の神器を返して頂きたく存じます」
「アカシ伯爵は、そなたの国とヒノモトとはどのような関係の国とお考えか? お尋ねしたい」
「我が国の天子様との血の繋がりがある国、兄弟国とでも言いましょうか。兄は我が国ですが」
「アカシ伯爵、八百年前にヒノモトを治めていた天子が天翔る船でヒノモトを旅立ったお話はご存知ですよね」
「今もヒノモトの王朝は続いておりますのに、自分たちが兄とは面白いことをおっしゃりますのね」
そろそろ、私が間に入らないとヒノモト同士が戦争を始めそう。アカシ伯爵が爆発しそうなくらい顔が紅潮している。
「ミカサ姫様、ご親族の国から使者が来られたのでご招待致しましましたのに、不穏な空気が漂っておりましてよ」
「アカシ伯爵がヒノモトの王朝がなくなったみたいなことを言うのでつい。アカシ伯爵を怒らせるようなことを言ってしまった。天子が治める国にヒノモトがまた戻ったことは本当に嬉しく思っている」
「アカシ伯爵、ご苦労であった」
ミカサ、一言多いよ、アカシさんがミカサの臣下みたいじゃないか。またアカシ伯爵の顔が赤くなったよ。
「ミカサお姉様、お戯れが過ぎましてよ」
「エマ王妃様、ミカサお姉様とはどういうことでしょうか?」
「ヒノモトではエマは私の妹ととして遇されている。ただ未だに位が少納言というのはまったくよろしくないと思うので、私がヒノモトに戻りしだい大納言に位を進めようと思う」
「エマ王妃様はヒノモトの国の臣下でございますか?」
「アカシ伯爵、何を驚いているのですか? 私はミカサ姫の妹ととしてヒノモトの儀式に参加しているだけですよ。ただヒノモトでは位がないと宮中を自由に歩けません。ですからヒノモトの天子様より位をいただきました」
「エマ王妃、私にはまったく理解できないのですが、ユートリアとヒノモトとの関係を一言で言うとどうなりますのか?」
「一言で言うと姉妹国、ヒノモトが姉でユートリアは妹ですね」
「もう一つエマ王妃質問してもよろしいかな」
「何ですかアカシ伯爵」
「ユートリアはメイ国と軍事同盟を結んでいる、間もなくイン国とも同様に軍事同盟を結ぶと聞きました。ヒノモトとも軍事同盟を結んでいるのでしょうか?」
「アカシ伯爵、ユートリアとヒノモトは姉妹国ですから当然結んでおります」
「ヒノモトを攻めると、メイ、イン、ユートリアに攻められる」
アカシ伯爵さん、考えが口から漏れてますよ。
「ミカサ姫、我が国から大使をヒノモトに送りたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、よろしくてよ。兄弟国ですから。ヒノモトが兄ですけれどね」
ミカサも一言多いよ。
「国に戻りましたら最低でも参議以上の身分の者を大使としてヒノモトに赴かせます」
アカシ伯爵さんのテンションが一気に下がっていった。
「リーベンはヒノモトと友好外交をとりあえずするしかない。三種の神器の返還は絶対に諦めないだろうけれどね」
「賢者様、それでミカサ姫をこの晩餐会に招待されたわけですね」
「私としてはもう少し天翔る船について話してほしかったのだけれどね。エミルがミカサ姫の祖先に与えたのは、エミルの姿が彫られた玉と、刀身にエミルの姿に見える刃紋の刀と夏至の日にかざすとエミルの姿が映る魔鏡と、天翔る船の四つで、天翔る船は実際に空を飛ぶと言われている」
「エミル様にしては気前が良いですね」
「エミルは諸国漫遊中、各地で酷い目にあったので、ヒノモトの歓迎がよほど嬉しかったのだろうよ」
「賢者様、リーベンはヒノモトにどのように接するでしょうか?」
「ヒノモトの天子が彼らの地位を保証するなら、今の天子を廃してヒノモトの天子の下につく可能性はあるが、ヒノモトの次の天子はミカサ姫なので、今の天子にご子息が生まれれば話は変わるが、リーベンは女王は認めない国なので、現状維持ということになるだろう」
「なぜ、リーベンは女王を認めないのですか?」
「女性を、自分たち男性の上にいただくのが嫌だから。女性は男性を立てるものだと思っているから」
「くだらない理由ですね」




