ミカサ姫来訪
「エマ、会いたかったよう」
私はいつものようにミカサの肩をタップした。徐々に意識が遠のいて行く。亡くなったお婆様がこっちにおいでと手を振っている。
「お嬢様、それ以上抱きしめるとエマ様が危険です」
私は息を吹き返した。カオリさん、いつもありがとう。ミカサの私への愛が重すぎる。できれば早くミカサに良き伴侶が見つかればって思う。絶対に口に出しては言わないけれど。
「そう、リーベンから使者がユートリアに来ているのね。会ってみたいわ。私たちはリーベンを追われた者の子孫だからね」
「賢者様、どういうことでしょうか?」
「ヒノモトの天子とリーベンの天子の祖先は同じ。ヒノモトの天子は八百年前王朝が分裂した時、天翔る船に天子の証である三種の神器とともに旧ヒノモトを去って今のヒノモトに落ち着いた。リーベンを元々治めていた天子の末裔がヒノモトの天子だということですな」
それってかなりマズくないだろうか? リーベンの天子の正統性が疑問視されるわけで。
「リーベンの使者がミカサ巫女姫にどう対応するのかが楽しみだね。主君の縁者であるとともに王位継承権の象徴である三種の神器を所有する者に対して、通常通りの外国の王室と同じ対応かどうか」
賢者様、間違いなく面白いとか思うことではないと思う。賢者様には何かが欠けている気がする。
「八百年前に国を出た人たちに、いまさら自分たちが本物の国王だと言われてもですね。困ると思いますけど」
「エマの言う通りだ。ヒノモトはヒノモトで、リーベンはリーベンでやってほしいと私は思っている」
「ミカサ姫がそう思ったとしても、リーベンの使節たちはそうは思わないはずです。わざわざ、ヒノモトの巫女姫を晩餐会に招いたのは、ユータリアはヒノモトの天子を、リーベンの天子にするつもりではないのかと彼らは疑うはず」
そうしろって指示したのは賢者様からなのだけど、賢者様はそれを狙っていたのか。
「今、リーベンを実際に統治している者たちは、元々天子の臣下ではなかった者たちで、しかも彼らの元々の身分は平民かそれに近い。彼らがリーベンの政治が行えるのは、今の天子に任命されたことによるもの。万一、ヒノモトの天子こそがリーベンの天子だとだと国際的に認知されると、彼らの地位は一瞬でなくなる」
「そういう話だとですね、ヒノモトはもの凄く危険ではありませんか! リーベンにとってヒノモトは存在してはいけない国第一位ですよ」
「そうなりますな。リーベンとしてそうならないためにも、最低、三種の神器は返してほしいだろうね」
賢者様、明らかに楽しんでいるでしょう。
「ミカサ姫、三種の神器をリーベンに渡しても良いとお考えでしょうか?」
「それはダメだ。三種の神器は神より賜りし神器なので、私の生命よりも大切なものだ」
「ヒノモトの者に魔法が使える理由ですが、エマ様わかりますか?」
「ヒノモトはあらゆる神々を信仰しているので、その中にエミル神がいるから」
「惜しい。三種の神器をミカサ姫の先祖に渡したのが諸国漫遊中のエミルだったからです」
エミル君って諸国を漫遊したんだ。
「三種の神器を信仰することで、ヒノモトの民の中に魔法を使える者が現れる」
「リーベンの者がそのことを知ったら何がなんでも三種の神器がほしくなる。その他の諸国もほしいでしょうね。自分たちも魔法が使えるアイテムですからね」
「賢者様、なんか嬉しそうですね」
「次のゾーラでの基調講演のテーマがやっと決まりましたから」
「賢者様、それを発表するつもりですか? ヒノモトに外国の軍隊が押し寄せますよ」
「そうなればなったで、ヒノモトで対応すれば良いのではないかと」
「三種の神器を寄越せと諸国の軍艦に来られたら、ヒノモトはとても困ります。賢者様、発表はおやめください。お願いいたします」
「ミカサ姫、私もネタ切れで基調講演のテーマがなかなか浮かばないものでね」
ネタ切れだからって戦争の火種になる発表は控えてほしいのだけれどね。賢者レヴィ様ってそういうところが大きく欠けている。人の迷惑を考えろですよ。
「ゾーラの発表はやめるとして。リーベンの使節にとって三種の神器は力尽くで奪ってでもものにしたいものには変わりません。ヒノモトが軍事的に弱ければ彼らは三種の神器を奪って帰るつもりだと私は思っております」
「ヒノモトの武力では軍艦二隻を止めるのは無理だ。私はエマに助けてほしいと思っている」
「ミカサお姉様のお願いでしたら喜んで聞きますわ」ミカサに抱きつかれた。
「苦しい。カオリさん助けて!」
「ところで、ミカサ姫、ヒノモトはミカサ姫のお陰で水不足もそう深刻でもなく、小麦の収穫量も、米の収穫量も例年並みですから、余剰の食料をユータリアに回して貰えるとありがたいのですが」
「賢者様、日照りは来年も再来年もでしょう? 私の頑張りだけでは」
「ミカサお姉様、私も頑張りますから大丈夫ですよ」
「エマ大好きだよ」
お婆様がまたおいでおいでと手を振っている。




