大使がやって来た
メイ国の軍艦は来年の夏に真水製造装置を引き取りに来ることになった。お土産に、スライムを使わずに済む真水製造装置の開発を期待して、真水製造装置の設計図を渡した。何かのヒントになるかもしれないとスライム三匹も進呈した。ペルセル提督はどうもブヨブヨ系が嫌いだったみたいですぐに副官に渡していた。副官も嫌そうだった。普通の人には魔物のスライムは馴染みがないのでしょうがないかなぁ。
メイ国が引き上げたら、次はイン国が六隻の軍艦でやって来た。メイ国とは違って交渉するのは軍人ではなく外交官、大使がやって来た。
このスコットという名の大使さんだけど、左遷されて僕は辛いですってオーラが凄い。
「スコット大使殿、部下の方はどうされましたか?」
「ユータリア国の大使館員は一名です。そうです。私一人です。笑えますよね。書記官もいない大使館ってあるのでしょうか?」
私に言われてもなんとも言えないですよ。文句はあなたの上司に言ってください。
「私はイン国の貴族ではないので、辺境の地を担当しています」
さらっとユータリアを辺境の地って言ってくれたよね。気分が悪い。
「イン国の軍艦ですが、もう出航ですの?」
「ロ国の軍艦を追尾しているついでにユータリアに派遣される私を運んだ来ただけですから」
なんだろうこのイラっとする感じはスコットさんには悪気はないのはわかるのだけれど。ユータリアにはついでで来たのかよって感じがする。
「王妃様、メイ国と同じ条約を私の国とも結んでください」
「スコット大使、ユータリアとメイ国の条約の内容とかはご存知でしょうか?」
「まったく知りません」
私はスコット大使にメイ国とユータリアと結んで条約について説明をした。
「ユータリアとメイが対等だとはこれは驚きました。で、メイがユータリアの海を共同で防衛って、軍事同盟じゃないですか。真水製造装置一台でそこまでするのかですよ。これは参りました」
スコットさんが考えこんでしまった。
「本国にちゃんとした貴族の大使を派遣してもらうよう手紙を書きますね」
私は思わずあなたはちゃんとした大使ではないのかと言いそうになった。
「スコット大使、あなた様は一体何をしにユータリアに赴任されたのですか?」
「私は低価格で真水製造装置を仕入れることと、ユータリアでは何が売れるかの調査するのが目的です」
良いのかこんなに簡単にユータリアに来た目的を話して。
「私は実は外交官ではなく貿易商ですから」
「本国がユータリアとの貿易で黒字になるようにするのが役目だったりします」
「早い話がユータリアは真水製造装置を輸出してイン国から何かを輸入してもらえれば良いわけです」
「何かとは?」
「武器ですね。ユータリアの武器はお粗末過ぎます。未だに剣、槍、弓矢ってないですよ」
戦闘方法が、魔法を主体にしたユータリアと魔法というものが存在しない国とでは大きく違うのだけど。こればかりは実際に見てもらわないとわかってもらえないだろうな。
「スコット大使、ユータリアから真水製造装置をイン国に納品する代わりに、イン国は最新式の武器をユータリアに渡すというのはどうでしょうか?」
「最新式の武器ですか? ユータリアだと二世代前の武器の方が製造しやすいと思いますけどね」
スコットさんて本当に気に障ることを言うよね。性格的な問題かしら。
「旧式ではなく最新式でお願いします」
「承知しました。最新式の武器ですが何丁程度でしょうか?百丁程度でしょうか? 一ロット百丁なのでそれ以下はご勘弁願います」
「一ロットってなんですの?」
「製造単位です。一度機械を動かすと百丁はできてしまうもので」
「イン国では最新式の武器を大量生産しているのですか?」
「武器って消耗品ですから、大量生産、大量消費です」
イン国はあちこちで戦争をしているみたいだ。メイからもっと情報を取っておくべきだった。私が外交をするわけではないから今後の課題として、グレイ君とウエルテルに話しておくだけで良いかな。
「スコット大使、ユータリア国主催の王宮晩餐会を行いたいのですが」
「エマ王妃様、私は外交官ではなく貿易商ですからそういう格式のある儀式はとても苦手でして、夕食会とかにしてほしいわけで」
「王妃主催の夕食会ではいかがでしょうか?」
「それでお願いします。私、今回モーニングとか礼服を持ってこなかったので、申し訳ありません。まさかユータリアが大国だとは思ってもみなかったものですから」
スコットさんて悪気はないのはよくわかる。でも本当にイラっとくることを言う。ヴィクターみたい。




