王宮晩餐会その3
「バイエルンの小娘、王宮晩餐会を止められた仕返しか? 良いだろうモーゼル領での戦いをお望みとは、受けて立つ」
「モーゼル伯爵、口を慎め。ここは貴族会議の場だ。王妃様、モーゼルは私と同様高齢でどうも頭の中がモヤモヤしていて正常ではございません。モーゼルも私もこれで政界を引退しますので、王妃様、モーゼル伯爵を大逆罪に問うのはご容赦ください」
一気に形勢逆転だよ。
モーゼル伯爵派の貴族からは銀山に代官を派遣しないのであれば、王宮晩餐会は認めると言い出した。モーゼル伯爵は大逆罪を犯したことが問題なので、外国人が王宮に入るとか入らないとかは瑣末なことなっているのがわかっていない。
「ウインザー侯爵、あなたまで引退する理由が私にはわかりません。残念ながら公の場でモーゼルは、王妃である私をバイエルンの小娘と貴族会議の場で軽んじました。その罪は問います。モーゼルから貴族の身分を剥奪し平民に落とします」
「衛士、平民モーゼルを王城より出すように」と衛士に私は命令したもの、実力者のモーゼルに近寄る者がいなかった。がしかし、一人の騎士がモーゼルを摘み上げた。脳筋のクランツ王子その人だった。
「モーゼル伯爵、あんたには小さい頃から世話になった。平民の身分にせっかく成れたんだ自由にやりなよ」
「クランツ、なぜお前は国王にならない。お前ならできる。バイエルンの小娘に毒気を抜かれたか?」
「モーゼル伯爵、あんたにはバイエルン家の王妃ってことでエマの姿が見えていない。今の王家には必要な人材だよ。オヤジ殿」
「後は任せたぞ、クランツ」
「おうとも、任せられた」
なぜだあのほのぼの感は。クランツはモーゼルを抱えながら、モーゼルは自分で歩くと抵抗していたが諦めた。あれ、モーゼルの目から涙が一筋流れたように見えたような気がした。
「王妃様、ありがとうございます」
「ウインザー侯爵に引退されると王家としても色々困りますから」
「王妃様にあらかじめお話をしておきたく存じます。先ずは金山ですが、既に掘り尽くしており、期待される程の金は出ません。その代わりと言っては何ですが、私が個人的に金銭を貸した貴族の借用証を献上いたします」
不良債権を体よく押し付けられた。
「ウインザー侯爵、よろしいのですか? 私の呼び名には強欲聖女、悪魔とか厳しい取立てで有名ですけど」
「私が取立てられる訳ではないので、王妃様のお心のままに」
これで多過ぎる無能貴族を一掃できる。ウインザー侯爵からお金を借りて居る貴族の顔色がとっても悪い。モーゼル派の貴族も借用証が私の手元に行きそうな流れになって、やはり顔色が悪い。
「これをもって貴族会議は終了」とウインザー侯爵が宣言をして会議は無事? 終わった。
「エマ様、今回の貴族会議は王宮晩餐会ではなく、我々の罷免をすべての貴族に知らしめるのが真の目的だったとは、王妃様の側近には知恵者がいるようですね。参りました」
「お褒めいただきありがとうございます。ところでウインザー侯爵はロ国の者と接触されているようですね。ロ国は陸軍は強いそうです。でも、海軍はメイと同格かそれ以下とのことです」
「ロ国の海軍では多くの兵士は送れないそうですよ。海上でメイ国とかイン国からの妨害も入るらしいです」
「そうでしたか。貴重な情報ありがとうございます」
「今、ユータリアの周辺の海を支配しているのはインという国らしいです。間も無くユータリアに来るそうです」
「ウインザー侯爵にはイン国との王宮晩餐会の差配をお願いします」
「承知いたしました。王妃様」
「王妃様、モーゼルは根っからのバイエルン嫌いですが、極めて有能な男ですので、処分はされませんように重ねてお願い申し上げます」
「ウインザー侯爵、なぜモーゼルはバイエルンを嫌っているのですか?」
「モーゼル伯爵は二十数年間、バイエルン家の暗殺対象でしたからな」
王家からの命令ではなく、母上の独断だろうか。
「モーゼルとクランツ王子は仲が良いのですか?」
「クランツ王子の母親の身分が低うございましたから、クランツ王子に近寄る貴族はおりませんでしたが、モーゼル伯爵だけはクランツ王子には見どころがあると言って、親代わりになって育てておりました」
「貴族の作法は私が教えたのですが、ああいう風になってしまいました。でも、やらなければならない時にはきっちりできますので、ご安心ください」
モーゼルとウインザー侯爵が手塩にかけて育てたのがクランツなのか。




