クランツ王子からの問いかけ
「おい、エマ。なんでアイツら剣も盾も槍も弓も持っていないんだ。闘うつもりはないってことか?」
「クランツ王子様、メイ国は剣も槍も弓も使いません。銃という武器で闘います」
「もし、メイの海兵に闘うつもりがあれば、銃から無数の鉛の球を飛ばして、近衛師団はなすことなく全滅していたと思います」
「アイツら全員凄腕の魔法使いか。参ったなあ。王家の魔法使いはみんな死ぬか、逃げたかしたのでいない」
「どういうことでしょうか?」
「魔法使いがバイエルンとかホーエル・バッハとか王家を脅かす地域の出身者が多くて、魔法使いを粛正した」
天界の後ろ盾も失った上に魔法使いの部隊も粛正するなんて王族は何を考えているのだろうか。
「エマ、メイのなんとかいう提督にその銃とかいうヤツを譲ってもらえないか?」
「おそらく、何も言わなくても銃は進呈してくれると思います。ただし真水製造装置と交換になりますけれども」
「あんなスライムと交換してくれるのか。気前が良いな」
クランツの馬鹿が確定した。早く元気になってウイル。ウイルでないとユータリアは持たないよ。
ウイルはなぜクランツに王位につけというのか私には理解できない。
「賢者様、ありがとうございます。宿舎で会談するとは思い付きもしませんでした」
「エマ様の臣下が準備していたのを、ただ言ったまでだ。褒めるならそのように準備をしたご臣下を褒めるべきでしょうね」
「問題は会談の後、王宮で晩餐会をすることになるが、結構な数の役人、貴族が王宮に提督らが入るのを反対している。さてエマ様はどうする?」
「私としては祖法が祖法がとただ喚き散らす人たちには王宮を去ってもらいたいのですが」
「あれらは、黒幕殿に言わされているだけでさほど害はない。いつでも寝返る」
「黒幕様は黙っておられるわけですか?」
「イヤ、こちら側に極めて協力的な態度、晩餐会も積極的に賛成してくれるだろう」
「エマ様を怒らせれば一瞬で王家がなくなるのはわかっているからね」
「黒幕様の意図がわかりません」
「エマ様が王家を見限って王宮からいなくなれば、王族も黒幕の支配下に入るしかなくなる。その後は王権を簒奪して王位につくかもしれない」
「あるいは外国の協力を得てホーエル・バッハを討伐し、次にバイエルンを討伐する、その程度の絵は描いていると思う」
「国難を利用して王権の簒奪ですか。しかも外国から兵士を借りる。どうかしてますね」
「それで外国の協力を得た代償に何を外国に与えるつもりでしょうか?」
「土地だね。そして将来的にはユータリアは諸外国の植民地になるだろう」
「黒幕殿にとっては王家に仕えるのも外国に仕えるのも同じだから」
「名目上王族、実質は外国の代官って、私には理解できません」
「まあね、ユータリア国内では大きな顔ができるから、それで良いのかもしれないよ」
「兎にも角にも今の王家に仕えても良いことは何もないから」
「祖法、祖法と喚いている連中は捨て駒だ。連中を焚き付けて最後に黒幕殿があの連中を潰して外国に良い顔を見せる」
「それってマッチポンプって言いませんか?」
「そうだね。晩餐会はできるだろうが、祖法の連中が使者に毒を盛るとかしかねないので注意が必要だね」
「面倒です」
「それが政治ってやつだ」
「わかったかガキ、政治は頭の良い奴に任せるに限る」
私もクランツと同じ意見です。
私には政治は無理だ。作物を育てる方が性に合っている。
「賢者様、晩餐会の料理はいかがしましょう? メイ国の料理など私たちは知りません」
「メイの連中は味より量なので濃いめの味つけで肉をふんだんに出してやれば良い。逆にイン国は見た目も大事だし味も濃い味よりも薄めが良いな」
「晩餐会のメニューは肉料理中心で量は多く、味付けは濃いめでですね。承知しました」
「王妃様、外国人を持て成す王宮晩餐会は祖法に反します。絶対に我々は反対です」
「あなたはどなたでしょうか?」
「私の名前も知らぬとは、あなた様は本当に王妃様なんでしょうな?」
「私はあなたと初対面ですが?」
「祖法に定められたお披露目の儀式がございませんでしたからな!」
面倒くさいおじいさんだ。この非常時に祖法が守れるかどうか少し考えればわかるだろうに。
「遠路はるばる来られた方々を持て成すのは当然のことです。国王陛下も祖法への拘りはありませんし、今は私が摂政ですから、私が法でございます」




