森の賢者レヴィ
私は、嬉しくて、嬉しくて水運びをし、畑に水を撒いた。
「おじいさん、この畑に何を植えるのですか?」
「豆と異国から取り寄せたとうもろこしを植えてみようと思っている」
「とうもろこしですか? 聞いたことがない作物ですね」
「多少乾燥していても、寒くても小麦よりも安定して収穫ができるらしい。ワシも聞きかじりの話なので実際に植えてみないと何とも言えないがな」
「この畑であれば何を植えても良い作物になると思います」
「迷いの森は大気も土も水も森自らが浄化しているからな」
「おじいさんはこの迷いの森に住んでおられるのですか?」
「おっと、自己紹介が遅れたね。ワシはレヴィという」
「これは失礼いたしました。森の賢者レヴィ様でしたか。私はエマ・フォン・バイエルンと申します」
「はて、エマといえばユートリア王妃になったと噂で聞いたが、王妃がなぜここに?」
「このままだと、私は将来世界を混乱に落とし入れ、キョムという得体の知れないものに世界が破壊されると精霊の王に言われ、森の賢者レヴィ様について世界の理について学ぶように言われました」
「王妃様、キョムもまた世界のバランスを保つものなので、得体の知れないものではありませんよ」
「キョムも世界の理に従って動いております、キョムも世界の理の一部でございます」
「賢者様、私のことはエマとお呼びください。キョムもまた世界の理に従っているわけですか? すべてがなくなるのに」
「元々、この世界は何もなかったのですから元に戻るだけにすぎません」
「エマ様、この世界はいずれなくなります。それが今なのかずっと先のことなのかの違いでしかありません」
「なくなることにはなんの変わりはないと」
「はい、そういうことですので、私は瞬間、瞬間を全力で生きていつ死んでも良いようにすべきと思いますが」
「ところで、エマ様は私から何を学びたいとおっしゃったのでしょうか?」
「世界の理です」
「エマ様は世界の理とはどのようにお考えでしょうか?」
「種が土の上に落ち根を張り芽を出し花が咲いて種ができ、その種が土の上に落ちてと循環することでしょうか?」
「生きものは生まれ、成長し、老いて、死ぬ。その繰り返しでございますね」
「他の生きものに食べられることはあっても、食べた生きものは、いずれ老いて死ぬ定めでございます」
「あるいは、今日の夜巨大な星降りがあって多くの生きものが死ぬかもしれません」
「そうかもしれません。しかし私は世界を混乱に落とし入れて多くの人が亡くなるのは嫌なのでございます」
「精霊の王は自分ならば世界の均衡を取り戻せると言いました。つまり方策はあるということです、精霊の王が私になれば、精霊の王がすべて収めてくれます」
「ホウ。エミル神に無理矢理精霊の王にされたマータリンク・フームがですか? 世界の均衡をアレが取り戻すなど無理に決まっているではありませんか?」
「自分の未来も他者に委ねたものに何ができるというのですか?」
「マータリンク、お前さんも自分では止められないから、エマ様をここに来させたのであろう!」
「私なら百年は遅らせることができる」
「百年は時間稼ぎはできるそうですよ、止めるのは無理だそうです」
「孫世代でおしまいってことだね、マータリンク」
「マータリンク君、質問です。誰が世界の均衡を破壊し続けているのか?」
「人間だ」
「要するに人間がこの世からいなくなれば、世界は元の均衡を取り戻しキョムは去るわけだ」
「エマ様が女王になって人間を処分すれば世界の均衡は戻ります。一番簡単な手段です」
「レヴィよ、エミル様もユグドラシル様もそれは望んではいらっしゃらない」
「自分たちの暮らす惑星がなくなりそうになる度にさっさと逃げだすものたちが、どの口で言うのか? 信じられん!」
レヴィ様ってエミル君たちのことが嫌いなのかなぁ。
「エマ様、人間は増えすぎました。減らさないといけません」
「私は医者です。人の生命を守るのが使命です。お断りします」無益な戦争で。戦争に有益なものなどないのですけれど。多くの人が亡くなったり、傷ついたり、多くの家族が悲しむ姿など私は見たくないのです。
「世界の理を捻じ曲げてでもですか?」
「世界の理を捻じ曲げれば、人間は助かります。しかし他の多くの生きものが死にます」
「それにです。この旱魃は今年を入れて三年続き、その後は大雨が続くと言うではありませんか。かなりの人が亡くなります」
「それが世界の理ではないのでしょうか?」
「これは人間への罰です。問題は本来責任を取らなければならない者は罰せられずに、弱い者にそのしわ寄せがきていることにあります」
「エマ様、あなたは王妃様ですね?」
「私の責任です。ですから私が世界の均衡を取りも出さないといけません」誰も死なず、他の生きものも死なない方法でです」




