エマと世界情勢
なんだかんだとカバラさんと話している内に私は近日中にウエストランドの女王になる話が進んでしまった。カバラさんが責任を持って国王陛下を教会に入れるらしい。
私の臣下に相談することなく、国王陛下が退位したら女王になることを承諾してしまった。政治はすべて今まで通りカバラさんが仕切るので今と変わらないらしい。国王陛下のご家族はどうなるのかは知らない。
ドックさんとネコさんは立ったまま寝ている。私も半分以上カバラさんの言っていることが理解できない。脳がついていけてない。案内人さんは大変なことを普通に話している私たちを、青い顔で見ている。別に消したりしないから。ダイキチさんの後任だし。
「カバラ殿、私は一旦大聖女国に戻ります。その間ですが、私の臣下のこの三名は死なない程度に使っていただいてもけっこうです」
「死なない程度にってどの程度なんでしょうか?」と案内人さんがつぶやいていた。
カバラさん基準なので私には答えられない。笑顔で誤魔化した。
「事後承諾で申し訳ないのですが、ウエストランドの国王が教会に入られたら、私、ウエストランドの女王に内定しました。ご意見があれば伺います」
「海の向こうにデカイ国々があるのは聞いたことがあったが、ユータリアに攻め込むと言う話はにわかには信じられない。エマさん、俺、それが事実かどうかその国々を見て回りたい」
「ダイキチさんには旱魃対策が落ち着いたらウエストランドに同行してもらって、カバラさんとお話をしてもらいたいと思ったいます」
「聖女様、ダイキチ殿がいないと私だけではこの国は回りません」
「ミーアさん、元悪党ですけど、有能な方を採用したのでダイキチさんの穴はある程度埋められるかもしれません」
「悪党を採用した?悪党をこの国の副宰相に据えるのですか?」
「副宰相はダイキチさんのままです。その人は副宰相代理でしょうか」案内人さん、頑張ってほしい。多少の横領には目をつぶってあげるから。本人には言わないけどね。
「大事なことなのでよく聞いてくださいね。海の向こうの国から海水を真水に変える魔道具について調査と言うか、魔道具を奪いにきています。魔道具等の警備を厳重にお願いします」
「それと魔道具開発に携わっている関係者の誘拐にも注意してください」
「ウエルテルにヴィクターに前国王陛下が一番に狙われると思います」護衛の数を増やしましょうとミーアさんが言う。
「そうしてください、ウエルテルとヴィクターが誘拐されたら、私は即座にその国に攻め込むと思います」
「聖女様、王家に真水の魔道具を引き渡すことになっていますがいかがしましょう」
「延期してください。王家やその取り巻き貴族に魔道具は管理できません」
「お水を、王家にそのまま樽で送ってください」
「聖女様、グレイと名乗る者が聖女様への面会を願っております。ドワーフ国王の親書を持参しているとのことです」
グレイ、記憶にある名前だけど、ドワーフ国王、書記のグレイ君か処刑されなかったんだ。忘れていた。
「グレイは弟のハンニバルの部下です。会いましょう」
「エマ様、グレイでございます。忘れられていたと思っていました」
「グレイ君、生きていたの良かったです。ハンニバルのところに戻れば良いですよ」
「やはり死んだと思っておられたのですね」
「機密文書室に侵入したら即処刑だから」
「私は機密文書室に入る前に捕らわれたので実際には入ってません!」
「マークされてたんだね」
「エマ様、ドワーフ国王からの親書です」
ドワーフ国王の親書には天界とは縁が切れたと書かれてあった。天界は天界でやることが多いので、地上にはちょっかいを掛けることはしないらしい。ただ、水不足がドワーフ王国でも深刻になってきていて、大聖女国には真水を作る魔道具があると聞いた。
ドワーフ王国でその魔道具を一台購入したいと書かれてあった。また魔道具のメンテナンスができる技術者も派遣してほしいとも書かれてあった。技術を丸パクするつもりなのがよくわかる親書だ。
ドワーフ王国の技術力なら今以上によい真水製造機を作ると思うので、渡しても良いのだけれど、海の向こうの国々にもその技術が渡るのは困る。でもドワーフ王国とは仲良くしたいので断りたくない。困ったことになった。
「グレイ君ってスパイだったよね、ドワーフ国王からどんな調査を頼まれたのかな?」
「大聖女国の情勢、ドワーフ国王に忠誠を誓う人間がいるかどうかとか、ユータリア情報がどうなっているかとかです」
「なんでそう簡単に話すのかなあ」
「誰もが思いつくことですから、話しても大丈夫な内容です」
「グレイ君って私とかハンニバルのこととか恨んでるのかなぁ?」
「そうですね。エマ様が出発した翌日には釈放されましたが、その後誰も迎えには来なかったですし」
「ドワーフ国王が僕のことを気の毒に思って雇ってくれたのでこうして生きてます」




